韓国の「半導体材料国産化」を見くびれない理由 模倣や日本企業からの人材引き抜きに警戒だ

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そこで、「韓流・模倣の戦略」と戦う前に、日本企業が猛省しなくてはならないのが、株主重視経営、終身雇用終焉の結果、従業員の「人心掌握」を忘れてしまったことである。再び、「戦略的人的資源管理(SHRM)」として、日本人従業員の心を徹底的にリサーチし、上手にマネジメントしなくてはならないのではないか。

パナソニックの創業者・松下幸之助氏は「まだ会社が小さかった頃、従業員に、『お得意先に行って、きみのところは何をつくっているのかと尋ねられたら、松下電器は人をつくっています。電気製品もつくっていますが、その前にまず人をつくっているのですと答えなさい』とよく言ったものである」と述べている。

日本企業が行うべき戦略とは

優れた製品をつくるのは会社の最優先の使命である。それを実現するためには、まずすぐれた人材を養成すれば、おのずといい製品がつくれるようになり、事業も発展していくと考えたのだ。

さらに、「単に仕事ができ、技術が優れていればいいというものではない」と説く。会社の使命や仕事の意義を自覚し、自主性と責任感を持った人でなくてはならないと考えた。この考え方は、終身雇用、従業員重視の考えが背景にあってこそ成立する。

対韓輸出規制を機に、日系半導体材料メーカーの得意先(韓国メーカー)が、中国をはじめとする外国企業に取引先を転換してしまえば、もう戻ってこないだろう。そうなれば、半導体材料メーカーの業績悪化も避けられない。

この事態を迎えたとき、「人斬り」がタブーではなくなった日本企業が、従業員に牙を向ける可能性は、なきにしもあらず。そうなれば、今度は従業員が企業に対して牙を向ける。

「模倣の戦略」で迫ってくる企業から知財を守り、打ち勝つにはどうすればいいのか。このたびの対韓輸出規制を皮切りに、日本企業は従業員の心をおもんぱかる経営戦略を真剣に構築してほしいものだ。

長田 貴仁 経営学者、経営評論家

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おさだ たかひと / Takahito Osada

経営学者(神戸大学博士)、ジャーナリスト、経営評論家、岡山商科大学大学客員教授。同志社大学卒業後、プレジデント社入社。早稲田大学大学院を経て神戸大学で博士(経営学)を取得。ニューヨーク駐在記者、ビジネス誌『プレジデント』副編集長・主任編集委員、神戸大学大学院経営学研究科准教授、岡山商科大学教授(経営学部長)、流通科学大学特任教授、事業構想大学院大学客員教授などを経て現職。日本大学大学院、明治学院大学大学院、多摩大学大学院などのMBAでも社会人を教えた。神戸大学MBA「加護野忠男論文賞」審査委員。

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