韓国の「半導体材料国産化」を見くびれない理由 模倣や日本企業からの人材引き抜きに警戒だ
日本を追いかけてくる国として韓国以上の脅威となるのが中国である。半導体を基幹産業に育てようとしている中国は、半導体材料の国産化にも食指を動かしつつある。日本政府が対韓輸出規制の対象にしたフッ化水素については、森田化学工業、ステラケミファなどの日本勢が占めるシェアは49.9%。中国は46.3%とほぼ拮抗している(JETRO調べ)。日本が寡占しているレジストやフッ化ポリイミドとは事情が異なる。
日韓関係の悪化に乗じて、中国メーカーはフッ化水素を中心に日本のシェアを奪おうとしている。いったん離れた客は戻ってこない。漁夫の利を得るのは中国であり、これを機に中国の半導体産業が一挙に台頭してくると考えられる。
これまで、日韓分業のサプライチェーンが現存し、日本の材料・部品メーカーは、得意先を安定的に確保できていたが、日本は「パンドラの箱」を開けてしまった可能性もある。
韓国企業の戦略兵器は「人心掌握」
模倣の戦略の餌食にならないためには、追いかけられる側は、できるだけリードタイムを長くしておかなくてはならない。韓国企業が本当に半導体材料で日本に追いつけるか否かは、現時点では定かではないが、少なくとも、韓国が最も重視している「スピード」をアップさせて、リードタイムを短くする可能性を高めたのではないか。
日本政府が韓国への半導体材料の輸出規制を厳しくすると発表してから6日後の7月7日、サムスンの李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が緊急来日した。規制の対象になった半導体先端素材3つ(フッ化水素・レジスト・フッ化ポリイミド)の取引先を探すため、慶応義塾大学大学院(経営管理研究科)留学時代に磨いた得意の日本語を駆使し、日本の半導体材料メーカーを行脚した。
日本の経済産業省がエッチングガスをはじめ、戦略物資の輸出許可権を握っているため、日本メーカー側が簡単に要請に応じたとは考えられないが、巧みな日本語と人心掌握術を駆使した交渉は、同じく日本(早稲田大学第一商学部)で学んだ父の李健熙(イ・ゴンヒ)会長譲りか。かつて、李会長は足しげく来日し、日本の有力技術者や経営者を自らスカウトした。
技術のキャッチアップと言えば、技術をまねる、と日本人は考えがちだが、模倣の戦略で鍛えられた韓国企業の戦略兵器は「人心掌握」である。このことを忘れて高をくくっていれば、近い将来、半導体材料でも想定外のスピードで韓国の国産化が実現し、ほかのキャッチアップされた製品と同様、日本メーカーの強敵になる可能性を秘めている。
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