古今亭菊之丞が「志ん生」に紡ぐ古典落語の魅力

まさに「上質な芝居」、いだてんの落語指導も

菊之丞は、錦木の本性を描きつつも、ぽんと空気を一変させて円満な結びにもっていく。

「錦木をただのいい人に描くのではなくて、盲人の悲哀をもった人に描く。次男坊が殿様になったと聞いて、錦木はこれで出世できる、とお屋敷に駆けつける。殿様は別に見透かして言ってるんじゃないけれども『おまえ、約束をかなえに来たんだろう』という。

そこで、錦木は『しまった。心の裏(うち)を読まれてしまった』と思う。あそこはいちばん難しいところで。あんまり湿っぽくなってもいけないし。といって、スラスラと言っちゃってもいけないしという、なんか笑い泣きみたいなのが、難しいですね。度が過ぎると、ほんとに人情噺になっちゃうし」

ある大師匠は「落語は口先ひとつで描く芝居である」と言ったが、菊之丞の落語を聞いていると、出来のいい一幕の芝居を見たような満足感がある。奇をてらった演出はしないが、人物や場面を印象的に描いている。

五代目古今亭志ん生を知らない筆者の世代は、菊之丞の噺を通して志ん生に触れていると思う。

夫人はNHKのアナウンサー

夫人はNHK の藤井彩子アナウンサー。同じ「声を出す仕事」ではあるが、舞台も聞き手も大きく異なる。

「彼女は高座の話などはしません。私も、放送のことを言ったりするのは悪いんで言いませんし。ただね、彼女は弟子には『声が出てない』と注意したりする。『落語家は別にいいんだよ』というんですが、発声練習なんかしているようですね」

今に、美声の若手落語家が売り出すかもしれない。

取材が終わって数日経って礼状が届いた。

毛筆で書かれた達筆のハガキを手にして、この師匠は何事も「本寸法(型を崩していない正統派であり本格的なこと)」なのだと思った。

いろいろ奇をてらう表現が巷にあふれている中で、菊之丞は古典落語を真水のように、すなおに、丹精込めて演じている。今はむしろ、そういうのが新しい。

(文中一部敬称略)

■古今亭菊之丞 プロフィール
1972年10月7日、東京都渋谷区生まれ。千葉県立国分高等学校卒業。1991年、二代目古今亭圓菊に入門。古今亭菊之丞を名乗る。2003年9月 真打昇進。
1998(平成10)年2月 北とぴあ若手落語家競演会北とぴあ大賞
2001(平成13)年11月 市川市民文化賞奨励賞
2002(平成14)年 NHK新人演芸大賞落語部門大賞
平成19年度 国立演芸場花形演芸会金賞
平成20年度 国立演芸場花形演芸会金賞
平成22年度 国立演芸場花形演芸会金賞
平成24年度 第63回芸術選奨 文部科学大臣新人賞(大衆芸能)
平成28年度 第71回 芸術祭賞 優秀賞受賞
〇出囃子「元禄花見踊」
長唄「元禄花見踊」から。「師匠の圓菊も『元禄花見踊』の曲中の『武蔵名物』を使っていました。私は同じ曲の最後のほうを出囃子にしました」(本人談)
〇持ちネタ 
「火焔太鼓」「愛宕山」「妾馬」「景清」「三味線栗毛」「幇間腹」「親子酒」「長短」「たちきり」「法事の茶」「素人鰻」「寝床」「棒鱈」「芝浜」「天狗裁き」「紙入れ」「百川」「子ほめ」「金明竹」「権助魚」「短命」「お見立て」「明烏」「二番煎じ」「酢豆腐」など。「ネタを繰らなくても(練習しなくても)常時かけることができるのは、20席くらいですかね」(本人談)
〇公演予定 
・寄席
鈴本演芸場8月中席(11~20日) 昼席
浅草演芸ホール8月中席(11~20日) 昼席
末広亭 8月下席(21~30日) 夜席・鈴本演芸場8月下席21~30日) 夜席
・ホール落語 9月以降 
9月9日 第138回江戸川落語会 江戸川区総合文化センター 小ホール
9月10日 湯島 de 落語 古今亭菊之丞ひとり会 湯島天神 参集殿
※公演の詳細については、主催者にお問い合わせください。
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