「志ん生師匠だけじゃなくて、落語の師匠は弟子にあまり稽古をしないんですね。今も“おれ、師匠から1席も教わってないもの”という人が多くて。それは(師匠の)コピーになっちゃいけない、ということもあるんでしょう。
ところが、うちの師匠は、稽古したがりで、私は最初の4席は全部、師匠でした。教わったのは“斜めの圓菊”じゃない。志ん生師匠直伝の、きっちりした落語でした。
それも一通り演ってみせるのではなくて、噺を途中で止めて、登場人物はどういう心持ちなのか、どういう場面なのか、などを細かく教えるんです。“こんちは”ひとつから“違う”とダメを出されるような稽古でした。
ここまで教わるのは、うちの一門だけじゃないでしょうか」
冒頭で、「いだてん」の落語指導を古今亭菊之丞が担当しているのは、五代目志ん生の孫弟子にあたるからだけではない、と言ったのはこのことだ。
菊之丞は単に筋目がいいだけでなく、五代目志ん生の落語を、師匠圓菊を介してそのまま受け継いでいるのだ。
改名をせずに真打昇進
2003年8月、真打昇進。落語家は前座、二つ目、真打と出世とともに改名をするものだが、菊之丞は最初に師匠につけてもらった名前のまま真打に。
「古今亭にいい名跡が残っていなくて。あったのは『御船家ぎっちらこ』だけでした」
本人がマクラ(落語の導入部)で振って笑いを取っている。ネタではあるが落語ファンは酒場で「ぎっちらこ一門の弟子の名前はどうなるか」で盛り上がったりしている。
昨今の真打は複数で昇進することが多いが、菊之丞は「一人真打昇進」だった。抜擢だが、真打披露の費用は1人で持たなければならない。
これには苦労したようだ。
また異例のことに、菊之丞は真打昇進時には新宿末広亭から花園神社まで「お練り(行列を組んで街を練り歩くこと。歌舞伎の襲名興行などでやる)」を挙行している。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら