戦略人事は、「HRビジネスパートナー」といった組織名/職種を掲げている場合が多く、この名称はその位置づけを端的に表している。
つまり、HR(Human Resource)分野を専門とするビジネスパートナー。従来の人事の役割が、「経営層の意思決定に基づいて人事関連の実務を担う」ことだとすれば、戦略人事は、「経営や事業の意思決定に人や組織の面から介在・支援する」のが仕事であり、両者の立ち位置はまったく異なるのだ。
では、なぜ戦略人事が必要とされているのだろうか。最大の理由は、市場環境の変化のスピードが年々増しており、企業は先の見通しが立てにくい“不確実な世界”で事業成長をしていかねばならないからだ。
だからこそ、先に挙げたように、運用・管理の実務は外部のエキスパートや機械に任せて、人事には戦略立案などの役割を期待されるようになった。人事のフィールドで仕事をするのではなく、経営や事業部のフィールドに人事の専門分野を持ち込んで仕事をするようなイメージに近い。
GAFAでも導入されている
こうした戦略人事は、現代の成長(成功)企業の多くで活用・重視されているポジションだ。例えば、世界的なイノベーション企業の代名詞であるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)には、4社ともHRビジネスパートナーのポジションが存在しており、もはや当たり前になっている。
また、日本においてもLINEやメルカリ、サイバーエージェントといった成長企業は、人事が戦略的に企業の顔として前に出ているような共通点がある。自らも表舞台に立って、社内外に経営理念やビジョンを発信する役割も担っており、人・組織をキーワードに活動の場を広げている印象だ。
このような流れを踏まえると、従来の人事と戦略人事はどちらも人事と名が付く役割ながら、必要となる能力がまったく違うことにお気づきいただけただろうか。今、もし人事部で運用実務を担っている人や、その管理をしているマネジャーがこの先も人事として活躍していきたいならば、今の自分のスキルでは通用しなくなる可能性も考え、新しい力を養っていかねばならない。
いちばんの大きな違いは、戦略人事が「攻めの人事」と称されることもあるほど、自らが事業や経営と一体となって会社の意思決定に関わる主体者となることだろう。人事は、経理や総務などの部署とともに“管理部門”や“バックオフィス”と言われてきたが、そういった位置づけに身を置くうちに、裏方のスタンスが染みついていないだろうか。
これからの人事は受け身では生き残れない。経営に提言していくうえでは、そもそも経営層の視界で物事を捉えられなければならないため、「上から降ってきたミッションを遂行するだけ」の人に戦略人事は任せられないだろう。また、的を射た提言をするには、事業部の深い理解が必要不可欠。経営と事業(現場)の双方を知ったうえで、人事的な知見を使って課題を解決し、計画を達成していくことが戦略人事の役割だからだ。
こうした自分の役割を理解していないと、経営や事業部の御用聞きと化してしまい、うまく機能しない。戦略人事を起用したものの失敗した企業の多くは、役割の定義や理解が曖昧なまま進めてしまったことが原因の場合が多いのだ。
極端な例を挙げれば、人事部の名称をHRビジネスパートナー部に変えただけで中身が変わっていなかったケースや、事業部側の立場が強いという長年の社内風土が尾を引いて、「パートナー」として認めてもらうのに苦労したケースもある。
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