意外と多い「パン屋」の食品ロスは減らせるか 「余ったパンを売る」という新ビジネス

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もちろん、パン屋でも品質管理に厳しく、翌日値引きして売ることすらしない店もある。ブランドイメージがロスのリサイクルと合わないため、加盟を断られる場合もある。ブールアンジュの場合も、当初は値引き目的の客が来ると客層が変わることを恐れていた。しかし、タベテに参加するユーザーには、毎日利用して食品ロス削減に貢献しようと考える人たちもいる。

タベテに参加した結果、ブールアンジュ側は、ほかの客には来店する利用者がロスになるパンを引き取っていることがわからず影響は出ない、と手応えを得る。それどころか、新しい客の来店に結びつく結果が出た。

そもそも「いつも大量に並んでる」必要があるのか

「タベテの真の目的は、お得でおいしく買っているうちに食品ロスに貢献するという人を増やすこと。そして、家で野菜を腐らせなくなったとか、牛乳を多く買わなくなったとか、日常の消費行動が変わっていく人が増えて欲しい」と篠田氏は話す。

最近は、浜松市などの自治体のほか、飲食店のテナントが入るビルを持つデベロッパーなどからも、コラボレーションの申し出が来ているという。今後は全国にこの取り組みを広げていきたい、と同社は考えている。

食品ロス削減の取り組みを、企業がビジネスとして行うようになったのは、時代の流れとはいえ、今回取材した2社とも食品のリサイクルで会社の経営が成り立っているわけではない。クアッガはシステム開発で、コークッキングはワークショップなどの事業で会社を回している。

フードシェアリングビジネスの規模が大きくなれば、もちろん利益も大きくなるだろう。しかし、廃棄予定だった食品を扱うというデリケートな事業だけに、商品管理が行き届かなくなると事故が起こる危険も増す。いいことだから、というだけでは回らないビジネスである。

となると、単に規模拡大を目指すのではなく、社会貢献部門と位置づけたほうがいいのかもしれない。消費者と、店と、会社がそれぞれ負担を引き受けると同時に、「おいしいパンに出合えた」「お客さんに喜んでもらえた」などの喜びを価値として受け取るシステム。それは、従来の利潤を求めるシステムとはなじまないかもしれないが、負担も分かち合うビジネスとしては成立するのではないか。

また、フードシェアリングサービスは、パン屋の場合、閉店間際まで大量に並んでいないと集客に響く、と考える文化がある実態を浮き彫りにした。日本のパン屋は品ぞろえの多さで世界トップレベルにある。選択肢が多いことは客にとって魅力的で、店側が機会ロスを避けたい気持ちもわかる。

しかし、環境負荷が少なく持続可能な社会を再構築する必要に迫られている今、商売のあり方自体を変えていく必要があるのではないか。

ロスの経済的ダメージが大きい個人店のパン屋では、売り切れたら早く閉店する店もある。商品アイテム数を減らし、ロスが出ない工夫を行う店もある。私たちは、いつでも簡単にモノを買える生活が、何を犠牲にしているのか考えるべき時期が来ているのかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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