選挙で余ったお金の行方を公開資料で確認できない――。衆参両院の現職国会議員による「選挙運動費用の余剰金」問題。その前提には、余剰金の使途や処理方法について、公職選挙法に何の規定もないという問題が横たわっています。
ただ、今回の調査では、余ったお金の行き先を公開資料で追跡できるように処理しているケースも少なからずありました。「余剰金の行方を具体的に示さなくても、法律上問題ない。報告義務もない」という姿勢、「公費が入っているのだから行き先を明確にするのは政治家として当然」という姿勢。与野党の区別なく、議員の姿勢はこの2つに割れています。
取材記者グループ「Frontline Press(フロントラインプレス)」と日本大学・岩井奉信(政治学)研究室の共同取材チームによる報告、その3回目です。
「余剰金を議員本人に戻した」
社会民主党の福島みずほ参院議員(比例代表、国会での所属会派は「立憲」)は2016年7月に4選を果たした際、約633万円の余剰金を出しました。収入は約1263万円です。
この余剰金の行き先を尋ねると、福島氏の政策秘書は「本人(福島議員)に戻す処理をしました」と答えました。
選挙運動費用収支報告書などの公開資料や事務所の回答によると、選挙の際、政治団体の「瑞穂と一緒に国会へ行こう会」から1000万円が福島候補に寄付され、選挙収支の「収入」に計上しました。他方、この「――行こう会」には、福島氏自身が800万円を寄付していたので、余剰金の約633万円は福島氏本人に戻した、適切な処理だ、という説明です。
この説明を有権者は納得できるでしょうか。
寄付金は貸し借りではないので、寄付をした段階で寄付者はそのお金の所有権を失います。福島氏の政治活動に賛同して市民が寄せるカンパなどについても、いったん、政治団体に入ってしまえば、寄付者はその所有権を失います。
ところが、自らの寄付は“特別な存在”であるかのように、福島氏側は余剰金約633万円を政治団体「――行こう会」に戻すことなく、福島氏本人に渡した、というのです。公選法は余剰金の使途について何も定めていませんが、こうした処理は「他人の寄付は私のもの、私の寄付も私のもの」という姿勢を自らに許しているかのようです。
ほかにも疑問点がありました。
余剰金を議員自らが個人として受け取った場合、所得として税務申告する必要が生じます。事務所側が「議員本人に戻した」という約633万円。これを福島氏は申告したのでしょうか。
こうした疑問について質問しようと、福島氏の政策秘書に取材を申し込み、主な質問項目を伝達。すると、約束の日、政策秘書は電話でこう言いました。
「福島(議員)とも話したけど、取材は受けないことにした。問題があるんだったら総務省に聞いてほしい」
総務省は参院比例代表の「選挙運動費用収支報告書」を担当しますが、余剰金の行方とは直接関係ありません。
「誰であろうと、寄付すれば所有権はなくなるので、貸し付けたかのように福島議員が余剰金を回収するのはおかしな行為です。一時所得として税務申告の問題も発生します。そもそもは、余剰金の処理について公選法に決まりがないから、こんな問題が生じてしまうのです」
自民党議員、余剰金を本人名義で政党支部に貸し付け
余剰金は議員個人のもの? そう思わせるケースはほかにもあります。
自民党の中山展宏衆院議員(比例・南関東)の場合、2014年12月の選挙で約478万円の余剰金を出しました。中山氏はこの全額を自らが代表を務める自民党支部に自分名義で貸し付けていたのです。
選挙の際、候補者が選挙資金として集めた「収入」には、税金を原資とする政党交付金が政治団体を通じて流れ込んでいるケースが多くあります。「支出」では、看板やポスターの制作などが「公費負担」で賄われています。したがって、選挙後に余ったお金も「公的」な性質を帯びていると言っていいでしょう。
これを中山氏のケースに当てはめてみると、問題の所在がよく見えてきます。公的性質を帯びた余剰金が、いつの間にか議員個人のお金となり、しかも政党支部に貸し付ける――。取材に対し、中山氏の事務所は「貸し付けを寄付に修正する方向で検討したい」と話しています。