「選挙余剰金」国会議員460人調査に映る意識差 64人が全額返金の一方で政党に「貸し付け」も

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 自民党の森まさこ参院議員(福島選挙区)のケースも中山氏と同じです。

2013年7月選挙の際の収支報告書を見ると、森氏は約708万円を余らせました。一方、収入には500万円の「自己資金」がありますから、実質的な余剰金はその差額、つまり約208万円です。この余剰金をどう処理したか。質問状に対する回答書によると、森氏は自らが代表を務める自民党支部に自分名義で約208万円を貸し付けていました。

この件に関し、共同取材チームは森氏の事務所にさらなる取材を申し込みましたが、6月20日までに回答を得られませんでした。

透明性が高い「ピッタリ組」与野党に64人

今回の共同取材で最も多かった回答は、余剰金の処理については「法令上特段の報告義務もない」という内容でした。公選法は確かに「余剰金が出た場合、こう処理しなさい」とは定めていません。したがって、使途を明らかにしなくても違法性はありません。

一方、選挙で余ったお金を1円単位までぴったり政治団体に入れている「ピッタリ組」の国会議員もいます。共同取材チームの集計では、調査対象とした460人のうち64人。政治団体は収支を報告する義務を負っていますから、現行の法制度の下では「余剰金をきっちり政治団体に入れる」方式が、最も透明性が高いと言えます。

(写真:Yoshio Tsunoda/AFLO)

その「ピッタリ組」の議員たちに、なぜ、そのように処理したのか尋ねてみました。主な回答は次のとおりです。

「余剰金の明確化のためにいたしました」(稲田朋美・元防衛相)
「選挙費用の収支を明確化するための処理です」(岡田克也・元外相)
「自己資金での選挙支出ではありませんので、余剰金については処理を明確にする必要があると考えて」(高市早苗・元総務相)
「党本部の原資には政党交付金も含まれているため、余剰金が発生した場合には政党支部に戻すべきと考えている」(大塚耕平・国民民主党代表代行)

こうした議員たちは与野党を問わず、「余剰金の行き先を透明にすべきだ」という認識を持っているようです。

「所属国会議員が5人以上」などの要件を満たす政党は、税金を原資とした政党交付金を受け取ることができます。それら政党は選挙の際、公認候補に対し、政党支部(政治団体)を通じて多額の寄付を行います。つまり、候補者が使う選挙費用には、国民が納めた税金も含まれているのです。

「法律上、義務がない」は議員としてあるまじき発言

こうした実態を踏まえ、高市氏や大塚氏は「余剰金は(処理を明確にするため)政治団体に返却すべきだ」と説明しているのです。

「法律で特段の報告の義務もない」と回答する議員と、「行き先を明確にする必要がある」と回答する議員。そこには大きな認識の差があることが浮き彫りになっているのです。

選挙をめぐる公費負担に詳しい日本大学の安野修右助教の話

(撮影:穐吉洋子)

「立法府を構成する国会議員が『法令上、義務がない』と、開き直りともとれる回答をするのは、選挙費用に税金が使われていることへの意識があまりに乏しすぎます。余剰金の使途を明確化するような法改正に向けて、議員自らが動くのが本来の姿ではないでしょうか」

共同取材チームは今回、500人以上の国会議員に質問状を送り(最終的な調査・分析の対象は460人)、その後も個別取材などを続けています。議員側からファクスやメールで届く回答には、一言一句、同一の内容が数多く含まれていました。与党も野党も、です。

与野党とも「法に規定ない」が続出

どこかで“模範”が示されたのか、自民党会派の回答には次のような文面が目立ちました。

「公職選挙法189条に基づいて収支報告されている選挙運動費用の残余財産の使途については、法令は特に規制を設けていませんし、特段の報告義務もないと承知しています。いずれにしましても、ご質問の選挙運動費用の残金については、法令に従って適正に処理しているところです」

そうした議員たちの間では、混乱もあったようです。

例えば、自民党の中西哲参院議員(比例代表)の事務所は、いったんファクスで「会計責任者の交代による引き継ぎ不備など、さまざまな偶発的要素が重なりこのたびの不手際となりました。選挙運動費用報告書および関係する政党支部の収支報告書を訂正致します」との回答を寄せました。その翌日、「当時の会計責任者に念のため、再度確認いたしましたところ以下の通りでございました」と説明したうえで、上記の「公職選挙法189条に基づいて〜」とほぼ同内容の回答を寄せ、「昨日の回答を訂正させていただきます」としました。

立憲民主党会派の多くの議員からも共通する文章で回答が届きました。次のような内容です。

「今後の選挙会計報告については、引き続き法令にのっとって対応してまいります。加えて、党本部において方針が示されていくと承知しており、当該方針に沿って適切に対応してまいります」

こうした回答から、有権者は「透明化への意欲」を読み取れるでしょうか。

共同取材チームは、選挙運動費用の余剰金に関する問題を引き続き報道します。

共同取材チームは、本間誠也、当銘寿夫、木野龍逸、宮本由貴子、伊澤理江、穐吉洋子ら(以上、Frontline Press)、岩井奉信、安野修右、山田尚武(以上、日本大学法学部)で構成しています。
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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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日本大学・岩井研究室

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日本大学法学部政治経済学科・岩井奉信教授の研究室。専門は現代日本政治。

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