「本物の日本人」とは何?ハーフへの不躾な幻想 「日本の食べ物は好きですか」と聞く心理
サンドラさんはドイツで育ち、22歳のときに来日。
「子どものころから漠然と“いつか母の母国の日本に住んでみたい”と思っていました。夢が叶った、という感じですね」
以来、在住約20年になるのだが、その顔立ちのせいで不愉快な思いをすることも少なくないと言う。
「まだ若いころ、役所に印鑑証明を取りに行って窓口に並んでいたら、係の人に“外国人登録書の窓口はあちらですよ”と言われました。“印鑑証明なんです”と並んでいたんですが、書類を見た窓口の人が“あれ? 日本に帰化された方ですか?”と聞いてくる。若かったから頭にきて大声で“いいえ。もともと日本人です!!”と言ってしまいました。今思えばそんなにムキになることでもないんですけどね(笑)」
日本語で話しかけても英語で返ってくる
サンドラさんの著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』がある。副題は「困った『純ジャパ』との闘いの日々」。
ここでいう「純ジャパ」とは、「ハーフでない日本人」。彼ら彼女らは「ハーフ」と聞いた途端、「モデルみたいにきれい」「日本語も英語も話せるバイリンガル」「海外と日本を行ったり来たりするお金持ち」などの勝手な思い込みでズケズケと質問してくる人々である。
「初対面なのに両親のなれそめを聞かれるのはもう慣れました(笑)。また、こっちが日本語で話しかけても英語で返ってくるなんてしょっちゅう。駅で駅員さんに『本屋さんのある出口は何番ですか?』と聞いたら『ブックストア? あー。ストレート・ゴー!』なんて言われたり。きっとガイジン顔を見ると条件反射で英語になるのでしょう」
サンドラさんの母国語は日本語とドイツ語で、実は英語はそれほど得意ではないという。
「英語がペラペラだと思われがちですね。勉強会などでも英語の資料を渡されますが毎回、日本語版をもらいにいってます(笑)」
サンドラさんの友人で、日本とアメリカの「ハーフ」で通訳・翻訳の仕事をしている女性は、日本育ちなのに、いつまでたっても「日本語、お上手ですね」と言われることに悩んでいた。
あるとき、先日亡くなった日本文学研究の世界的権威ドナルド・キーンさんに相談する機会があった。キーンさんから「大丈夫、大丈夫。私も日本文学の講義をしたあとに、聴講者に“ところで日本語は読めますか?”と聞かれるんだから」と言われて楽になったという。「日本語お上手ですね」のような「ハーフあるある」の根は深く、相当に困ったものなのだ。