「新ピンポン外交」に陥った米中貿易摩擦 日米欧の連携が新秩序構築には必要だ
さらに交渉を難しくしているのが「国際緊急経済権限法」(IEEPA)に基づく対メキシコ関税の発表だ。トランプ政権はUSMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ間の新NAFTA)に3カ国が署名後であったにも関わらず、新たな関税発動の可能性を示唆した。これによって、アメリカは交渉の信憑性を失いかねない。
つまり、中国はアメリカと仮に合意に至ったとしても、その後、トランプ政権が何かしら理由をつけて、新たな関税を発動しかねないと捉えるであろう。したがって、中国はアメリカとの交渉を妥結するインセンティブに欠け、交渉から去るリスクさえ指摘されている。
なお、これまでは北朝鮮問題など外交問題が米中貿易交渉にも影響を及ぼすことが指摘されてきた。だが、中国は北朝鮮問題で協力してきたが、トランプ政権による通商政策は北朝鮮問題とは関係なく展開されてきた。したがって、今後も北朝鮮や中東、中南米などにおける外交問題で中国政府の協力を考慮してアメリカが通商政策の手を緩めることは見込めない。
2018年9月に2000億ドルの追加関税を課すことをトランプ政権が発表して、中国は米中貿易交渉への参加を中止し、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで両国首脳が会うまで交渉は中断された。トランプ大統領と習近平国家主席の直接会談がディール成立の絶好の機会であり、直近では6月28~29日に大阪で開催されるG20で米中首脳会談が実施される可能性がある。トランプ大統領は同会合に意欲を示しているものの、会合が行われない可能性もまだ残されている。
6月6日、外遊先フランスでトランプ大統領は対中追加関税第4弾についてG20後に決定すると語った。同会合が成功裏に終われば、対中追加関税第4弾の発動が保留あるいは撤回されることも期待できる。一方、仮に首脳会談が決裂に終わった場合、トランプ大統領は残りの対中輸入約3000億ドルに対し最大25%の追加関税を課す可能性が高い。また、今後アメリカは、ファーウェイ以外にも輸出管理規制強化の対象となる中国企業を拡大することが見込まれる。
「新ピンポン外交」で市場のボラティリティは高まる
1949年の中華人民共和国の成立以降、米中両国の国交が途絶えていた状況下、1970年代初めに名古屋で開催された卓球世界大会に米中両国の卓球選手が派遣された。その後も続いた卓球選手の交流が米中関係の雪解けのきっかけとなり、「ピンポン(卓球)外交」と呼ばれた。
ブルッキングス研究所のデビッド・ダラー上級研究員は、現状の米中貿易交渉を「新ピンポン外交」と称する。ただし、意味合いは異なり、米中貿易交渉妥結について楽観的な状況と悲観的な状況とが行ったり来たりすることから、このように名付けている。
6月末の両国首脳の会談が確実視されれば、市場は好感的に捉える。だが、同首脳会談に向けて両国は強硬策をアピールし、お互い交渉に向けて威嚇し、交渉の立場を強めようとしている。その都度、市場のボラティリティは高まってしまう。
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