「新ピンポン外交」に陥った米中貿易摩擦 日米欧の連携が新秩序構築には必要だ

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政治経済面の情勢悪化などで妥結圧力がかからない限り、早期合意は難しいと思われる。トランプ大統領は自らの支持率としてもアピールしてきたアメリカの株式市場の動向を重視している。米中貿易交渉と株価はいたちごっこの関係にある。仮にトランプ大統領が中国と交渉妥結の姿勢を見せれば、市場は好感し株価は上昇する。だが、株価上昇によってトランプ大統領は強硬な通商政策の市場への影響は限定的と捉え、再び強硬な通商政策を発動しかねない。

大統領の元側近によると大統領の政権運営スタイルは状況に応じてルールを決めていくものだという。交渉相手を追い込み、圧力をかけ、不確実性が高まり周囲が心配する中、最終的には自らの手でディール成立に至る。

中長期的にも楽観的な状況と悲観的な状況が混在することとなる。仮に今夏から今秋、トランプ大統領が成果を優先し、公約の中国の構造改革が不十分な内容でも米中貿易交渉が妥結に至った場合、市場は楽観的なムードに包まれる。だが、政治では、2020年大統領選に向けて民主党大統領候補が合意内容を批判することが想定される。超党派で幅広い国民に支持される対中批判が展開されるであろう。また、ファーウェイ問題についても同社を救済した場合は議会からの反発が必至だ。

そうなると、いずれ米中貿易摩擦は再燃する。いずれにしても、米中覇権争いに決着がつくことはない。

対中政策では日米欧の連携が重要

知的財産権侵害、強制技術移転、補助金問題など中国の国家資本主義に基づく不公正貿易慣行は、欧米企業だけでなく多くの日本企業も長年、懸念してきたことだ。これらについて、日米欧の問題意識は一致している。アメリカは301条に基づき単独で対中政策を進める一方、日米欧は貿易大臣会合などを通じて連携し、中国の国家資本主義の問題について協議を重ねている。

だが、日米が対中政策で連携を図ろうとする一方で、日本が対中政策の効果的な手法と考えてきたTPP(環太平洋経済連携協定)からトランプ政権は発足直後に離脱した。1962年通商拡大法232条(国防条項)に基づき同盟国である日本に対しても、鉄鋼・アルミ製品に追加関税を課している。

仮に今秋以降、自動車・部品にも232条追加関税を発動すれば、日本経済への悪影響が懸念され、日米関係にも緊張が高まる。日本政府がトランプ政権の焦点を日米貿易関係ではなく、米中貿易関係にシフトさせることに成功すれば、アメリカによる対日強硬策を回避することも可能であろう。

安倍首相は、トランプ大統領とは6月のG20に続き、8月にはG7、そして9月には国連総会でも会う可能性があり、その都度、対中国政策での連携でトランプ大統領を説得する機会がある。

今後、交渉が始まる米EU(欧州連合)貿易交渉そして、7月の参議院選以降加速するであろう日米貿易交渉の過程で、自動車・部品に対する232条追加関税をめぐり、アメリカがEUや日本との関係を悪化させれば、対中政策で一枚岩にはなれず、連携が弱体化しかねない。

戦後構築されたGATT/WTOに基づく貿易体制に限界が見える中、各国は世界貿易の新たな秩序構築に向けて模索している段階だ。その最重要課題は中国の国家資本主義への対応である。トランプ政権は301条追加関税、投資規制、輸出規制などに基づき、主にアメリカ単独で中国の構造改革を試みている。しかし、本来は日米欧で連携しなければ解決できない問題だ。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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