「対メキシコ関税」は経済危機の発端ともなる

トランプ氏の独断に震撼するアメリカ産業界

またも独断専行的に発表して、波紋を広げたトランプ大統領(写真:REUTERS/Jonathan Ernst)

「もちろん、大真面目だ」

6月2日、アメリカの大統領首席補佐官代行ミック・マルバニー氏は、フォックス・テレビでドナルド・トランプ大統領の本気度を強調した。メキシコ政府が不法移民のアメリカへの流入を大幅に減らさないかぎり、メキシコに対し追加関税を課すという。

対メキシコ関税策はトランプ大統領が5月30日に突然、ツイッターおよび大統領声明を通じて発表したものだ。「国際緊急経済権限法」(IEEPA)に基づく。メキシコからの全輸入品目に6月10日以降5%の追加関税をかけ、その後もメキシコ政府の移民対策が不十分であれば税率を毎月1日に5%ポイントずつ引き上げ、最終的には10月1日に25%にする。その後もメキシコ政府の対応次第では追加関税率25%を維持するとしている。

追加関税はこれまで通商政策の一環であったが、今回はまったく異なる移民対策に利用するもので、トランプ政権の政策は新たな領域に踏み込んだ。5月中旬以降に米中貿易交渉が不透明感を増し、金融市場のボラティリティが再び高まる最中の対メキシコ関税の発表は、企業のビジネス環境やアメリカ経済の先行き不確実性をますます高めた。

移民政策にはトランプ大統領の政治生命がかかる

突然の発表は事前に情報が漏れることを防ぐためと報道されている。トランプ大統領は強硬な移民政策の一環として政権の支持基盤にアピールすることを狙ったとみられる。また、メキシコを威嚇する手法として採用した。共和党議員を含め各方面からの反発や金融市場の反応次第では、発動前に撤回されることもありうる。だが、過去に発表された強硬な通商政策と同様に実際に発動に至る可能性も大いにあるため、アメリカ産業界は深刻に捉えている。

今議会の最重要案件であるUSMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ間の新NAFTA)批准に向け、産業界・議会の協力がますます重要となる矢先に、その意向に反する追加関税の発表に踏み切ったのは、自らの政治生命を考えるトランプ大統領の直感が働いたためだろう。

これに先立つ5月24日、サンフランシスコ連邦地裁は大統領権限で国防予算をメキシコとの国境建設に使うことを差し止める命令を下しており、大統領にとっては痛手となっていた。また5月29日にメキシコとの国境エルパソで中米諸国出身の1000人を超える不法移民の一団が国境警備隊により拘束されており、米メディアで大きく報道されていた。大統領は現行の移民政策の効果に失望し堪忍袋の緒が切れたのであろう。国境の壁建設は公約でもあり、トランプ大統領にとって強硬な移民政策は2020年大統領選に向けて極めて重要である。

さらに、ロシア疑惑とその調査をめぐる問題も背景にあるとみられる。5月29日、この問題を調査していたモラー特別検察官が記者会見で、現職大統領を起訴することは、司法省ガイドラインに基づく選択肢になかったことを表明した。これは、事実上大統領による司法妨害があったとして、起訴は議会が弾劾プロセスを通じて担うべきことを示唆したものである。

モラー氏の会見後、トランプ大統領に対する弾劾の声が民主党の一部を中心に高まり、連日報道された。モラー氏の会見の翌日に、トランプ大統領が対メキシコ関税を発表したことには、この問題から国民の注目をそらす狙いもあったと考えられる。支持基盤を失えば、2020年大統領選での再選がなくなるだけでなく、弾劾の可能性すら高まるからだ。

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