「女は家事、男は仕事」は、誰に対する差別? 女を閉じこめ男を酷使する、古い価値観

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もうひとひねりしましょう。マーケティング対象の違いだけの問題ならば、「別に男性向けなんやからかまへんやん」ですむのですが、もう少し問題は複雑です。「男と女は異なっているけど平等だ」という異質平等論の立場を、性差別という観点からどう批判できるかという、けっこう大きな問題です。

男女の間に、身体能力などで、統計的に違いがあるのは事実です。一方で、私を一瞬で投げ飛ばす女性の柔道家は山ほどいるはずで、「個人差は必ず性差を超える」というのが、ジェンダー論の出発点です。私たちが「女(もしくは男)だから○○しなければいけない」と考えることの大半は、実は、生物学的に決まっているものではなく、社会的性差(ジェンダー)に属するもので、それを必ず超える個人がいると、私たちは考えます。

ですから性差別を仮に権力の上下関係というふうに狭く定義すると、それとは別に、「女はかくあるべき」といった性役割は、性別からの自由という観点から見て、問題となる。つまり、性に関する平等のほかに、性別からの自由が認められないと、個人の能力を活かすことができないということになるのです。

私が違和感を覚えたのは、そういった性役割分業を、「若い女性が掃除をする」という形で露骨に発信している点です。「疲れてるのね? でも頑張って!」という、稼ぎ手たる男性への過剰な期待と同じ意味において、です。

学会も批判を受けて、「女性を差別する意図はないが、配慮が足らず、反省している」とのコメントを出しています。「女性差別」を意図する学会などないでしょう。だとすれば、やはり目配りがかけています

この表紙は狭義の「性差別」ではないのかもしれません。ただ発信するメッセージが、ずいぶん古典的な性役割分業を前提としており、その辺の息苦しさ・怪しさが嗅ぎとれないと、一部の女性(そして男性)から批判されるのではないかな、と考えています。

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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