一方、日産は現在、目玉と言える商品がそれほどありません。ハイブリッド車も北米市場で売れるようなハイテクの高級車も、人気のある車種がほとんどないのです。
ゴーン氏のコミットメント経営が裏目に出ている!?
2つめのポイントは、日産は新興国市場に懸けていた部分があったのですが、頼みの新興国経済が減速傾向にあるということです。日産は、それほどの付加価値を要求しない新興国市場、特に中国などで売り上げを伸ばしたいと考えていました。ところが、今年6月あたりから米国のQE3(量的緩和第3弾)縮小予測が広がってきたことで、新興国への投資資金が引き揚げられ、成長率が鈍化してきているのです。
さらに、日産のパートナーであるルノーの本拠地、欧州の経済も、財政縮小の影響で景気が低迷しており、デフレ傾向が進みつつあります。このように、注力しているアジアや欧州の経済成長が停滞していることが、日産の戦略に合わなくなってきていることも、業績悪化の原因となっているのです。
その裏側にあるのは、カルロス・ゴーン社長のコミットメント(必達目標)経営にあるのではないか、という話もあります。1999年にゴーン氏が社長に就任する前、日産の経営は極めて厳しい状況に陥っていました。そこでルノーから派遣されたゴーン氏はコミットメント経営を行い、日産を見事に立て直したのです。
ところが、こうした数値目標の達成がだんだん「目的化」してきてしまったことで、会社の中で自由度が失われてしまったり、必要な投資ができなくなってきてしまったのではないかと私は感じています。その結果、魅力的な高性能車や高級車、はたまた今、日本で人気のある小型車の開発が遅れてしまったのではないかと思われます。何が何でも数値目標を達成するという、ゴーン氏のコミットメント経営が、徐々に裏目に出てきたと言えます。
さらに、欧州債務危機の影響でルノーの業績が低迷していることで、余計にルノーが日産の収益に頼ってきているという点も、日産を苦しめる原因のひとつとなっています。
しかし、いずれにしても、日産はお客様にとって魅力のある車を作らない限り、業績を改善させることは難しいでしょう。私の師匠の藤本幸邦先生は、いつも「おカネを追うな、仕事を追え」とおっしゃっていました。確かに日産を立て直した当時は、コミットメント経営という手法は正解でしたが、今は景気が回復してきたわけですから、状況が変わっているのです。それでもなお、数字を追いかけてばかりで、お客様が欲しい商品をつくらなければ、結局、うまくいくことはありません。
今後、日産の経営方針がどのように変わっていくのか。お客様にとって魅力ある車を開発していくのか。それらの点が、業績回復のカギを握るのではないかと思います。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら