人殺し「耐性カンジダ菌」世界同時発生の恐怖 手を打たなければ世界で1000万人が犠牲に?
こうした対応には患者の知る権利を重視する人々から怒りの声が上がっている。「いったいなぜ、1年半も経ってから(報道で)大発生のことを知ることになるのだろう。翌日には1面トップになっていてもおかしくないのに」と、患者の権利を訴える団体ヘルス・ウォッチUSAのケビン・カバナー会長は言う。
リスクがはっきりしない中で発生を公表すれば、個人では対応のしようがないこともあり、いたずらに患者を怖がらせるだけだというのが当局者の言い分だ。「医療の側にしてみれば、こうした病原体の問題が出て、それを理解するのだって大変なのに」と、CDCの感染症調査官を務めたことのあるアンナ・ヤフィーは言う。「一般の人々にメッセージを送るなど絶対に無理だ」
アメリカでは587件の感染例
イギリスの当局者はCDCに対し、ロイヤル・ブロンプトン病院でのカンジダ・アウリスの発生について問題が収束する前に連絡した。そしてCDCは、アメリカ内の医療機関に注意喚起する必要性を理解した。2016年6月24日、CDCは全米に向けて警告を発するとともに、メールによる問い合わせ窓口を開設した。真菌対策チームの主要メンバーであるスニグダ・バラバネニは、問い合わせはポツポツと来る程度だろうと思っていた。「たぶん月に1通くらいのペースだろう」と。
ところが数週間のうちに、メールボックスはあふれんばかりになった。CDCによれば、アメリカにおけるカンジダ・アウリスの感染例はこれまでに587件が報告されている。症状は発熱や痛み、だるさといったもので、一見ありふれている。だが人が感染すると(特にすでに病気を抱えている場合は)そうしたありふれた症状が命取りになることもある。
薬剤耐性のあるカンジダ・アウリスの拡大を防ぐ対策を取る一方で、CDCはカンジダ・アウリスがどこから来たかを突き止めようとしていた。
初めてカンジダ・アウリスの感染が確認されたのは日本だ。2009年にある女性患者の耳から発見された(アウリスはラテン語で耳を意味する)。当時は大した害はないと考えられていた。感染症の原因となるが容易に治療できる、ありふれた真菌の親戚だと考えられていたからだ。
3年後、オランダのナイメーヘンの感染症の専門家ジャック・メイスらがインドの4つの病院で血流感染症になった18人の患者の分析を行ったところ、カンジダ・アウリスに感染した例が確認された。それからというもの月を追うごとに、世界の異なる場所でカンジダ・アウリスの新たな感染例が出てくるように思われた。