営業の仕事が本当に楽しい
楠木:実は私、最近、自分の勤め先の大学で「営業本部長」を任じられまして、いろいろなところに営業に行っているのです。
江幡:いろいろされているんですね。
楠木:それで実際にやってみて思ったのですが、営業というのは一種の総合芸術みたいなもので、人間力が試される仕事なんじゃないか。プレゼンテーションや交渉とか、いろんな能力が必要になりますよね。
江幡:まったくそのとおりだと思います。営業マンというのは、会社を代表して営業先の相手と対峙している存在なのです。したがって、つねに商売全体を見渡すという経営者的なセンスが求められます。
楠木:ほとんどというか、おそらくすべてのビジネススクールには「セールス=営業」という科目はありません。今まで学問的に取り扱えなかった理由が、自分でやってみて少しわかった気がします。とにかく、仕事として深い。
江幡:営業といっても、ルートセールス的な販売が主体となると違ってきますが、新規開拓といった本来の営業は、非常にクリエーティブな仕事だと思います。よく、30歳になったあたりのサラリーマンの、「今まで営業しかやってこなかった。将来のキャリアが不安だ」といった悩みを聞きますが、私に言わせれば何の問題もありません。営業で数字が作れる人は、独立してもやっていける人です。
楠木:営業はもっと光を当てるべき仕事ですね。
江幡:私の経験からも言えますが、営業の仕事は本当に楽しい。面白くないという人は、単に販売するだけの仕事になっているのではないでしょうか。私は自分のことを今でも営業マンだと思っていますよ。
楠木:ところで、普段から意識的に勉強されるのですか。
江幡:本はよく読んでいますね。
楠木:ビジネス書は読まれますか。「フレームワーク」とか「MECE(ミーシー)」とか、その手のことが書いてある本ですが。
江幡:そういうたぐいのことをインプットすることはありません。ビジネスにおいてはつねに仮説を立ててやっていますが、基本的に現場主義というか、仕事をしながら考えるようにしています。
楠木:私はこういうキーワードが大嫌いなんです(笑)。そういうことを勉強している人は、ビジネスで成功しないんじゃないかと。フレームワークが……、なんて言う前に、自分の意見を述べてくれ、と言いたくなりますね。
江幡:私も嫌いですね(笑)。そうした思考法みたいなものでビジネスがうまくいくなら、どんな仕事でも、コンサルティング会社がやれば、すべて成功することになりますよね。それはありえないです。
楠木:ビジネスに成功するかどうかは、もっと別の要素、好き嫌いもそうですが、フレームワークにすぐに載らないもののほうが大きく関係していることは間違いないと思います。
江幡:私の場合は、さらに、ビジネスプランの筋がよいかどうかを気にします。「筋のよさ」というのは、そのビジネスが世の中のために役立つかどうか、だと私は考えております。
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