営業が大好き。これぞクリエーティブな仕事 オールアバウト、江幡哲也社長の好き嫌い(下)

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成熟社会ニッポンで花開く新しい可能性

楠木:今後、オールアバウトはどんな方向に、ビジネスを展開していくのでしょうか。

江幡:まじめな話をしますと、今までは役に立つ情報を提供して、ユーザーを集客して、広告でマネタイズしてきました。これからは、情報の提供にとどまっていては、いけないと考えています。

楠木:どんなビジネスになるのでしょう。

江幡:ネットによって、マーケットそのものの構造がガラッと変わりましたよね。EC(電子商取引)から始まって、商品の製造や流通など、あらゆるプロセスにおいてイノベーションが起きている。オールアバウトもそっちの方向に進むべきだと考えています。あまり具体的なことは話せませんが、メディア業という枠を取り払って、たとえば製品開発に参加してもよいのではないか。専門家とユーザーがいるわけですから、うまくマッチングすることで、受注生産的なシステムが作れると思うのです。

楠木:コモディティはやらない、と。

江幡:コモディティには興味はありません。ユーザーのちょっとしたこだわりを反映した商品を作りたいですね。私が以前、コーポラティブハウスの設計をしたように、家はユーザーがこだわれる要素がたくさんありますよね。そうしたこだわりを、専門家とネットを活用して、昔では考えられないような、迅速かつ低コストで実現する。家以外では、自動車、ファッション、ジュエリーといった商品が考えられます。

楠木:それは「大人っぽい」ビジネスですね。世の中が成熟したときに初めて出てくるビジネス。

江幡:そうなのです。日本はコモディティにあふれていて、世界で最も成熟した社会といえます。消費に関しては、とことん質的によいモノを求める大人なんですね。そんな大人が何におカネを出すのかというと、自分が価値を感じられるモノでしょう。それは一人ひとりのこだわりが反映されたモノにほかなりません。

楠木:数年前、「ウェブ2.0」とか言っていたときには、ブロードバンドだとか、ソーシャルネットワークだとかで、ネットの世界も忙しかったわけですが、ひととおり落ち着いてくると、ネットの持つ価値にもさまざまあるということが見えてきた。フェイスブックやグーグル、アマゾンのような水平的にどこまでも広がる「インフラ」とは別に、ジャンルごとにユーザーと専門家をつなげて、情報の非対称性の中で埋もれていた価値を、顕在化させようとする垂直的なプラットフォームを作り上げる。江幡さんが好きでこだわってきたことが、本領を発揮する時代になりましたね。

(撮影:風間仁一郎)

楠木 建 一橋ビジネススクール特任教授

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くすのき けん / Ken Kusunoki

1964年東京都生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より一橋ビジネススクール教授。2023年から現職。専攻は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『絶対悲観主義』(講談社+α新書)のほか、近著に『経営読書記録(表・裏)』(日本経済新聞出版)などがある。

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