その鋭い美意識や独創性により、かの天下人・織田信長や豊臣秀吉さえも一目置いたといわれる“茶聖”千利休。しかし、そんな崇高なまでに研ぎ澄まされた彼の美意識の原点にあるものが、彼の若き日の秘められた情熱的な恋にあるとしたら――。そんな大胆な仮説を基に希代の茶人の出発点を取り上げ、第140回直木賞を受賞した山本兼一の歴史小説を映画化。その作品『利休にたずねよ』が12月7日より公開される。
主演は、原作者の山本兼一自らが「利休役にはこの人しか考えられない」と熱いラブコールを送った市川海老蔵。多忙を極めるスケジュールの合間を縫って、シナリオの改稿にも参加した。それと並行してお茶の稽古にも精進を重ね、関連書物や利休ゆかりの茶碗、茶杓に実際に触れたり、利休に関連した史跡を訪れるなど、およそ1年にわたり撮影の準備に備えたという。そのかいあって、本作では従来の利休像を覆す、情熱を内に秘めた利休像を見事に描き出している。
この作品を映画化までこぎ着けたのが、東映の関西支社の宣伝マンだった森田大児プロデューサーだ。本作の原作にほれ込み、部署の垣根を超えて本作の映画化に奔走。新人であるがゆえに、時に大きな壁にぶつかり、時に試行錯誤を繰り返したが、情熱を持って、この大きなプロジェクトを推し進めてきた。今回、その森田プロデューサーに、市川海老蔵を出演させるまでの経緯、そして他部署に所属しながらも映画初プロデュースを行ったときの話を聞いた。
「少しでも宣伝になれば」と、タイトル入りのハッピで撮影に応じる森田プロデューサー。さらにお茶を点てるサービスも。
――歌舞伎といえば松竹ですが、歌舞伎役者の市川海老蔵さんが、東映の映画に出演するというのが面白いことだと思いました。彼はどのような経緯で出演することになったのでしょうか?
もともと初めから山本先生の中での利休のイメージは海老蔵さんでした。僕自身も、“茶聖”ではなく、もっとギラギラした、いわば毒気のようなものを奥に秘めながらも、美しいものに執着していく人間味のある人といえば、天下の市川海老蔵しかいないと思っていました。
まず海老蔵さんありきでこの企画は進んでいきました。社内からも、同じ原作を狙っている外部のプロデューサーからも、「東映の映画に海老蔵は出ないよ」と言われました。正直、交渉には2年間ぐらいかかったのですが、かなり不安でした。一方、海老蔵さんとしては、別の理由で返事が遅れていたのです。「茶聖・千利休は自分ではない、あのすばらしい、神様のような存在を自分がやるなんて想像ができなかった」と言うのです。
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