――東映の岡田裕介社長は本作をプロデュースをするにあたり、何かおっしゃっていたのでしょうか?
クランクインの直前に社長から励ましの言葉をいただきました。そのときは急に社長室に呼ばれたので、クビなのかなと思い焦りました。でも実際はとても機嫌がよかったのです。なぜかと言いますと、細川護熙(ほそかわもりひろ)先生のお茶碗を劇中で使うことが決まったからなのです。そして細川護熙先生は社長と交流がある方なので、それで社長の耳に入り、「お前みたいな素人のプロデューサーが、今、現場にいても誰も言うことは聞いてくれないだろう。だけどこうやって本物のお茶碗を持ち込むことで現場にやる気や緊張感を与えることなら、今のお前でもできる。だからこれはなかなかいいことをした」という風に言ってくださったのです。そういう激励はうれしかったですね。
――本物のお茶碗と言えば、時価数億円はくだらないと言われる初代長次郎の黒樂茶碗「万代屋黒」を用意するのに、非常に大変な思いをされたそうですが。
撮影の初日に、市川海老蔵さんが僕に「この映画では本物を使わないの?」といったことをおっしゃるんです。海老蔵さんの言う本物というのは、もちろん利休が使った物という意味です。とはいえ、今焼と言ったら当時でいう最新のお茶碗でしたので、「今ここに古いものを持ち込むとそれはウソになってしまいます」というような言い訳は、一応、用意していました。しかし海老蔵さんは、お茶に関する勉強している僕をそれなりには信頼してくださっていたとは思うのですが、「よく勉強してるね、ただそれは本音ではないでしょ。だってあの400年の歴史を背負ったお茶碗の迫力に勝てると思う?」とおっしゃった。
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