僕が市川海老蔵さんと交わした「悪魔の契約」 『利休にたずねよ』森田大児プロデューサーに聞く

✎ 1〜 ✎ 42 ✎ 43 ✎ 44 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

それは本当におっしゃるとおりなので、「やばい」と思ったのと同時に、「自分も見てみたい」と思ってしまった。それから社長の「本物を現場に持ち込む緊張感」という助言もあったので、「わかりました」と言ってしまったのです。その瞬間に、スタッフがみんな、すごく哀れんだ目で、急にこっちを振り向きました。付き人の市川新次さんからは、「この人は悪魔と契約しちゃった」と言われる始末でした。

やっぱり門前払いに…

――きっかけは海老蔵さんだったと。

その場のノリで「借りる」と言ってしまったのですが、調べれば調べるほどに、樂茶碗というお茶碗を借りるのは非常に難しいことがわかったのです。過去に作られた利休作品でも、やはり本物にこだわっているものが多かったのですが、その中でも樂茶碗だけは当時の物を借りることは難しかったようで、今まで借りられたことがないことを知りました。これはいよいよ海老蔵さんに謀られたかと、いろいろ被害妄想を抱きました。

でも翌朝、普通に現場に行くと、海老蔵さんが「おはよう お茶碗は?」と言うわけです。これは本当にブルーになりました。でも、もう言ってしまったものはしょうがない。何とかしなければと思い、それからお茶碗を探しまくるわけです。でもやはり、基本は門前払いですよね。普段、美術館に厳重に飾られているようなものを貸してくださいと言うわけですから、そんな危ない話はなかなか聞き入れていただけなかった。

最後に、山本先生が樂家御当代の樂吉左衛門さんとお知り合いだったので、紹介していただくことができたのです。そこで樂吉左衛門さんの夫人から「利休が使ったお茶碗の物撮り(写真撮影)だったら貸してもいいよ」と言われたのです。物撮りだけでもすごいと思って、「やった!」と喜び勇んで現場にその話をもっていったら、「物撮りじゃ映画の撮影はできないよ。お湯をちゃんと入れて、お茶たててじゃないと」。僕はもう「何を言ってるんだ!」と思ってしいました(笑)。

――喜びが大きかっただけに、落胆も大きかったでしょうね。

でも、確かに現場のスタッフの判断は正しくて。やはり使える状態でないといけないわけです。それで海老蔵さんには「すみません。ダメでした」と謝りに行ったのです。「樂さんですらお湯を通したことのないものでした」と。

――海老蔵さんの反応はどうだったんですか?

「そっか」とすごく残念そうにしていて。怒ったわけでもなかったのが逆に寂しくなったんです。だから、申し訳ないなと思う反面、でも今まで誰も借りたことないわけだからしょうがないと。

でも、実はうわさで聞いた話なのですが、僕が現場をちょこちょこと離れていたときに、ほかのスタッフから「なんでプロデューサー現場にいないんだ」という声が上がっていたようなのです。そんなときに海老蔵さんは「そんなこと言うな。俺がああいうことを言っちゃったから。今にきっとあいつは本物のお茶碗を持って帰ってくる」とかばってくれていたらしいのです。

次ページ海老蔵さんの言葉で奮起
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事