休みの日に仕事を忘れて気分転換したいとき、庭のある小さな美術館に行ってみてはどうだろう。庭園を散策できる南青山の根津美術館、林の中にたたずむ目白台の永青文庫、二子玉川駅から丘を上っていく静嘉堂文庫など、緑を身近に感じながら作品を眺めていると、いつのまにか雑事が消えていく。港区白金台にある畠山記念館もそんなスポットのひとつだ。
正門を入ると、都心には珍しく木々の緑と土の香りに包まれる。茶室の点在する庭の小道をたどり、樹齢300年というアカマツの巨木を目印に本館の入口へ。
開催中の冬季展「春を祝う」では、野々村仁清、尾形乾山、尾形光琳の作品を中心に、茶道具の名品が展示されている。
茶道具というと敷居が高そうだが、畠山記念館の水田至摩子学芸課長はこんなアドバイスをしてくれた。
「千利休の時代には、信長、秀吉など有力な武将たちの間で茶の湯がブームになりました。戦で手柄を立てた褒美に、茶入などのお茶道具が出されることもありました。茶室は敵味方なく、ざっくばらんに話ができる空間だったのかもしれません。そんなことを想像しながら見るのも楽しいですし、今回はお茶道具を通して春を感じていただければと思います」
生き物のように、動き出しそうな梅
梅の季節にぴったりなのが、尾形光琳の「白梅模様小袖貼付屏風」だ。光琳は人気、実力ともに江戸時代を代表する絵師の一人。京都の呉服商の次男に生まれ、着物の図案も描いた。
この屏風は、いったん仕立てた着物を、後にほどいて金地に張ったもの。萩と麻の葉の模様が織り出された生地に、梅の枝が描かれている。
「色数が少ないですよね。でも、このシンプルな色使いが、かえって墨の動き、梅の表情を強調していて、筆の勢いが感じられます。梅の花は、正面、横と単純化された形でありながら、それぞれに変化があって、生き物のように動き出しそうです」と、水田さんは語る。
公開されるのは6年ぶり。写真は着物の前身頃を張った左隻だが、後身頃を張った右隻も並び、華やかな雰囲気を作っている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら