僕が市川海老蔵さんと交わした「悪魔の契約」 『利休にたずねよ』森田大児プロデューサーに聞く

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撮影の日もトラブル続き!

――そして撮影の日を迎えるわけですね。

ただ、お茶碗を使う当日も、すんなり撮影が進んだわけではありませんでした。現場からは「お茶は1回しかたてられないと聞いたぞ。1回しかたてられないということは、まずカットは割れないし、長まわしでいくとしても、やり直しはきかない。そんなものは現場では使えないじゃないか」と怒られて。ここまできて、使えないなんてことがあるのだろうかと思って、まずいなと思ったわけです。

そこで樂吉左衛門さんの夫人が当日いらっしゃっていたので、「1回と言いましたが、あれはワンシーンということですかね? それとも1日ってことですかね?」などと相談をしたのです。すると「いやいや森田さん、今日はいい映画を作っていただきたくて、主人と相談してこのお茶碗を持ってきたのです。ですから1回で不都合があれば、2回でも3回でも好きなだけ使ってください」となったのです。僕はすぐに現場に戻って「1回でも2回でも3回でも使ってくださいとおっしゃっていました」と。そしたら現場のスタッフも「おお、そうか」と。

そのとき、海老蔵さんが「そもそもこのようなお茶碗は1回で決めなければなりません。だから何があってもカメラを回し続けてください」と言ってくれた。そして、撮影が始まり、無事、本物のお茶碗を使うことができました。社長の岡田から助言があったように、本物を使うことで、役者のやる気や、空気を引き立たせることができたのかなと思いました。

もちろん、割れる心配はつねにありました。400年間、お湯を入れていないわけですから。でも、お湯を注いだ瞬間に照りが出てきたので、カメラマンさんがすごく感動したと言っていましたね。それまでは、老成された、400年の歴史を超えた静かな迫力みたいなものがあったのに、いざ湯をバーンと入れると、まったく別の代物になったのです。もちろん割れる心配もまったくない。割れるといった発想が頭から消えるぐらいに、ものすごく強くなったのです。お茶碗から放つものが静ではなくて、ギラギラした強いものに。あれにはちょっとうっとりしました。

(C)2013「利休にたずねよ」製作委員会
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