日本初(!?)のナレッジマネジメントをワープロで作成
楠木:あくまで顧客志向が強いのですね。世にいるオタクの人も、自分の知識を他人にいろいろと教えてくれますが、教えること自体に快感を覚えるというか、相手を構わずに一方的に教えがちだと思います。そのあたりも江幡さんが違うところかもしれませんね。昔からそういうタイプだったのですか。
江幡:そうですね。私がリクルートで営業をしていたときも、後輩にいろいろと教えたりしていました。当時のリクルートは、基本的に営業の会社で、2~3年営業マンをやっていると、みんながかなりの猛者になってくるわけです。私も最初は営業で、いろいろともまれているうちに、売ることができるようになっていきました。ただ当時は、営業マンは一人ひとりの個人商店という感じで、営業のノウハウなどは社内で共有されていなかったのです。そこで、私なりの営業のノウハウを体系化したハンドブックを作って、若手を集めて教えたりしていました。私が売れているのに、ほかに売れない営業マンがいるという状態がイヤだったのです。
楠木:売れていなかった営業マンが売れるようになると、それがまたうれしいということですね。
江幡:そうなのです。そのハンドブックを持ってきましょうか。大切に保存してあります。……(席を外して数分後)……これが、当時、1992年頃に私が作っていたものです。
楠木:これはずいぶん立派なものですね。当時は、パソコンではなくワープロの時代ですよね。
江幡:そうです。表はもとより、罫線1本描くのも大変でした。でも、こんなふうに図式化するのが好きなんですよ、図面引きと一緒です(笑)。
楠木:これは今で言うところのナレッジマネジメントのはしりだと思います。こうした資料作りとか、若手を集めての勉強会とかは、誰から言われたものではなく、あくまで自主的に行っていたわけですよね。
江幡:勉強会はほぼ毎日。週に3、4日は、資料作りで遅くなって、会社の近くのカプセルホテルで寝泊まりしていました。そんなナレッジの体系化を続けていると、いろいろなことが見えてくるのです。まず、書かれているノウハウのとおりに営業をすれば、誰でも売れるようになる。さらに、ビジネスのアイデアも生まれてきます。
楠木:具体的にはどういうことですか。
江幡:体系化しているので、業界ごとに抱えている問題点や不都合などが、一目瞭然になっています。そのおかげで効果的な営業ができるのですが、営業を続けていると、別の問題が次々に浮かび上がってくる。そして、その問題を解決するための新しいサービスを考えていくと、自然と新しいビジネスのアイデアになっている、というわけです。
私は、このやり方で、営業によるマーケティングとリサーチが重なると、そこに新しいビジネスが生まれるということがわかりました。このハンドブックから、おそらく100個くらいの新規事業のアイデアが生まれたと思います。その中で、実際に事業化されたものも、かなりあるんですよ。
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