一方で、家系ラーメンのお店で修業し、そこにルーツがありながらも、店名に「○○家」を冠せずに独立する若いラーメン店主の動きもある。
大田区・蒲田に2018年2月にオープンした「らーめん飛粋」。家系では「末廣家」(白楽)が好きだと語る店主の小泉裕太氏は26歳とまだまだ若い。学生時代、坊主頭に太った容姿でなかなかバイトの面接に受からず、唯一自分を拾ってくれたのが家系ラーメン店だった。
それから家系一筋で修業し、2018年修業先の閉店とともに独立したのだが、「らーめん飛粋」の店名からは家系の雰囲気は感じない。それだけではない。店構えもまるで料亭のようで、家系ラーメンの体育会系なイメージを捨て、少し高級に見せる工夫が見える。店の前ではメニューは確認できず、木でできた看板に店名が筆文字で書かれているのみだ。派手な看板やメニュー表示はハナから考えていなかったという。
「“家系=男”みたいなイメージで長い間語られてきましたが、今の時代には合わないと思うんです。それを覆したくて」と小泉氏は言う。
作り方も非常に丁寧で、豪快というよりは繊細な手さばきだ。親鶏だけで採った黄金の鶏油がかかった一杯は、濃厚だがどこか上品でおいしい。ラーメン業界の権威とも言われる「TRY大賞新人賞」の豚骨部門5位にも選ばれた。
「大手のFC展開で家系はお店が増えすぎました。工場ではなくお店でスープを炊いて作っている私たちとしては、そこと混同されたくないんです」(小泉氏)
FCとの差別化を図りたい
さいたま市大宮区にもう1軒、家系ラーメンをルーツとしながらもそう見えないラーメン店がある。「麺家 紫極」。「二代目武道家」(中野)出身の荒井剛氏が地元・さいたま市で2018年8月にオープンした。「麺家」は「麺屋」「麺や」とも同じように使われる屋号で、家系ではそうそう使わない。
埼玉県には家系ラーメン店は少なく、あっても資本系のFC店がほとんどだった。神奈川や東京のようにもともとおいしい家系ラーメン店が根付いていたわけではなかったので、お客さん的に家系ラーメンがうまいという認識がないまま資本系が進出していった。そのせいか失敗して閉店するケースも多かったそうだ。
資本系しか食べたことのない埼玉のお客さんの中には、家系が資本系のお店の味というイメージを持っている人も少なくないようだ。そこで荒井氏も小泉氏と同様の考えで、混同されないように、家系を連想させないような屋号としたワケだ。
横浜家系ラーメンが資本系の波を受けていることについては、「時代の流れ」なのではないかと荒井氏は話す。「これはブームではなく増殖ですよね。家系に関しては、お客さんの食へのこだわりが見えなくなってきています。職人ももう必要ないのかもしれません」(荒井氏)
「吉村家」から始まった横浜家系ラーメン。かつては「家系」であることがブランドだった時期もある。今や資本系の屋号が目立つうえ、家系で修業しながらも独立の際には「家系」「〇〇家」を店名に冠した店を出さない若い店主が出てきた。「家系」のブランドがあまりに一般化し、希少性が落ちてしまっていることを示唆するようだ。
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