「夜、寝かせてもらえないのは、日常茶飯事でした。明日仕事だから、頼むから寝ようとお願いしても、全然きかない。言い合いをしている最中、すげー眠くなるんです。でも、コクリコクリとし始めたら、なんで話聞かないんだ!と蹴られる。寝不足で、ボーッとした状態で職場に行くことも何百回とありましたね。外回りで営業車を運転しながら、寝落ちしたこともあるんです。下手したら事故を起こして大惨事につながっていたかもしれないと思うとゾッとしますね」
桃子さんの容赦ない暴力は顔面にも及んだ。頬に爪を立てられ、全力で引っかかれ、肉がえぐれた。斜めに裂けた傷が3本残った。それでも出社しなければならない。翌朝、その傷を見た上司や同僚に「お前、いったいどうしたんだ!」と驚かれた。
「とても、妻にやられたなんて言えないんです。だから、酔っぱらいに絡まれたと言いました。今思うと、すごく苦しいウソをついてごまかしていましたね。あと、当時は営業職だったので、顔に傷があると顧客に不審がられるんですよ。だから、帰って、元妻に『お願いだから顔だけはやらないでくれ』とわけのわからないお願いをしていましたね」
命の危険を感じたこともある。横になっている最中に頭を蹴られた。打ち所が悪かったらどうなるかと、ずっと思っていた。
桃子さんは、口論になると「本当は、お前を刺してやりたいと思ってんだよ!」と絶叫するようになった。いつ包丁を持ち出して待ち構えているかと想像すると、敦さんは気が気ではなかった。
離婚後、自殺を考えた
ある夜、桃子さんに平手打ちをされたとき、耳がキーンとなって、しばらく聞こえなくなった。
思わず、「あなたがやってるのは、暴力だし犯罪だからやめて!」と諭すと「だったら警察呼べば!?」と怒鳴られた。もう無理かもしれないと思った。今まで考えもしなかったが、一度警察に怒られたら頭を冷やしてくれるかもしれない。そう思って、敦さんは初めて110番通報した。しかし、やってきた警官には民事不介入と言われ、親身になってはもらえなかった。
敦さんが警察を呼んでからというもの、桃子さんの態度は一変した。それまでは、口論になっても最終的に家に入れてもらえたが、それ以降、チェーンロックをかけられ、家には一切入れてもらえなくなった。そのため、敦さんは実家での生活を余儀なくされた。
ある日、桃子さんの不在時に家に戻ろうとすると、鍵を差し込んでも開かない。桃子さんは、部屋の鍵を変えていたのだ。マンションの契約名義も、家賃の引き落とし先も自分の口座なのに、なぜ、家に入ることすらできないのか。敦さんは思わずカッとして、鍵屋を呼んで開けてもらった。代金を精算している最中、突然威圧的な態度の警官がやってきた。
「おい、お前なんで来たかわかってるよな!」(警官)
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