北関東出身の彼女が地元と実家に絶望するワケ 「東京の大学に進学」は地元を捨てる事と同意

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女性は民生委員の経験があるので各家庭に詳しく、PTA会長も務めているので地元をよく知っている。優秀な層はさっさと地元を捨てて東京にでて、下位層が地元に残って親を頼りながら生きている。ずっと親と同居、または同じ敷地内で生活することで世帯収入を保って、なんとかギリギリの生活を送っている。それが一般的な北関東の家庭の姿のようだ。

「下位層の子どもたちが高卒でそのまま夜の世界に流れるのも、もうずっと前から事実です。正直、夜の世界や風俗、援助交際に走る子はメチャクチャ多い。最初は工場とかに就職するけど、やっぱり賃金が異常に安い。それで休日に水商売をはじめて、どんどんのめり込んでいくってパターンです。1番の勝ち組は結婚して子どもを産むこと。本当に溜息をつくことはたくさんですが、ここでは、それしか生きる道がないかもしれません」

親の世代から北関東にずっと住んでいるという女性は、溜息をつきながらそう語っていた。どうにもならない貧困の連鎖が続き、人口減少は止まることなく、もうどうにもならないようだ。よそ者はイジメられて追いだされてしまうのだから、地方創生などは夢みたいな話で、意識の高い地域住民のガス抜き程度の成果しかないようだ。

最後、羽田さんの話に戻ろう。彼女は孤独と貧困に耐えながら、八王子の僻地の部屋でなんとか生きている。

地元に未来がないとわかっているのは頭のいい人だけ

「地元が閉塞して未来がないってわかっているのは、頭のいい人だけです。みんななにもわかっていないから、ずっと地元にいるんだと思う。今の私もたいして変わらないけど、工場か介護か風俗かしか仕事の選択肢がなくて、風俗以外は全員低賃金で親にパラサイトしながら生活しています」

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フェイスブックもツイッターも地元同士でしかつながっていないので、外の世界を知りようがないようだ。

「精神病が治ってないし、正直ツラいことばかり。だけど、仕事も見つかったし、なんとか頑張ります」

そういって、話は終わった。取材が終わって写真撮影を頼んだ。彼女は撮った写真をワンショットごとに確認しながら、自分だとわからないかチェックする。親に所在がバレるのが本当におそろしいようで念入りだった。

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中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けてつづけている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮社)、『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)など多数。Twitterアカウント「@atu_nakamura」

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