北関東出身の彼女が地元と実家に絶望するワケ 「東京の大学に進学」は地元を捨てる事と同意

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羽田さんの母親は見えっ張りのブランド好きで、頻繁にアウトレットモールなどで買物しているという。

就職して2年目。父親の性的虐待も、母親の身体的虐待もなくならない。精神状態は本格的におかしくなり、親に隠れてこっそりと受診した。うつとPTSDと診断されて服薬をするようになった。

とくに母親の暴力は、社会人になってからさらに激しさを増した。このままでは殺されると思うようになり、東京にいるただ1人の高校時代の知り合いにSOSをだした。知り合いにお金を借りて、現在住む八王子の部屋を契約して、家を抜けだした。仕事は家出する前日付けで退職した。

「こっちに来てまず就いたのは、工場の雑用みたいな仕事です。給料は手取り15万円くらい。家賃を払って、奨学金と友達への借金を返済して、お金を使わなければなんとかやっていけた。コンビニ弁当も買えないような苦しい生活だけど、地元に戻ることに引き換えたら夢みたいだと思った。苦しいときもあるけど、それだけでなんとか頑張れました」

そして半年前、抱えているうつが発症して働けなくなった。退職して、収入は完全に途絶えた。少しだけ休んでインターネットであらゆる求人に応募した。必ず不採用になる。クラウドワークスでイラストの仕事をしながら、仕事を探し続けて先週やっと新しい仕事が決まっている。

追いつめられて何度も死ぬことを考えて、何度も自殺未遂もした。採用の連絡がきて、まだ生きることができるとホッとした。

商業地でも観光地でもないし、産業もない

20代貧困女性から北関東で起こった似たような話を立て続けに聞いた。地元から排除されて親に収入をとられて貧困に陥り、最低限の賃金を稼げる雇用はなく、日常は虐待まみれで逃げるしか生きる道がない、という内容だ。

北関東は大丈夫なのだろうか。先日、筆者は別件でたまたま羽田さんの地元の隣の市に行くことになった。その市で民生委員とPTA会長を務めた(50代の)女性に会うことになり、羽田さんたちから聞いた話を伝えた。

「商業地でも観光地でもないし、産業もないので経済は基本的にまわっていないです。虐待まではそれぞれなのでわからないですが、地元から離れた人が排除されるのと、貧困だらけなのは事実です」

普通に生活できる仕事は公務員と農協、信用金庫くらい。あとの仕事は最低賃金に張りついた雇用ばかりで、1人で自立できるお金はなかなか稼げない、という。

「今、現役世代でここに住んでいる人たちは、親の土地に家を建てている人がほとんど。自立できていません。今の年代だと親からの援助があって、40歳、50歳になっても80歳の親からお小遣いをもらっていたり。コメと野菜はわけてもらうとか。今のその世代が自分の子どもや孫に土地を残せるかといえば、残せない。相続税を払えないだろうし、土地がもう余っていない。今の世代で終わりです。なので、今の子どもたちは食い詰めることになります」

次ページ優秀な層はさっさと地元を捨てて東京にでる
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