大きな産業もレジャー施設も、観光もない北関東は衰退の一途をたどっている。すでにあらゆる地域でシャッター商店街だらけという状態だ。週刊東洋経済2月23日号の地方の特集で都道府県別“2030年の15~64歳、人口15年比”が掲載されていた。群馬県14.2パーセント、栃木県14.7パーセント、茨城県16.6パーセントと、さらに人口が減り続ける厳しい数値がでていた。
「偏差値が低い高校で、クラスの何割かの就職先は水商売とか風俗ですよ。中学の同級生もそんな感じ。地元では、そういう仕事に就くのは普通のことです。まともな仕事はないし、あったとしても生活できるお金は稼げない。ほとんどの人は高卒で工場とかに就職して、地元に残り続けている。村社会なのでイジメもすさまじい、褒める部分はなにもない」
家は祖父母の代から住み続ける元からの住民だ。たまに移住してくる人もいるが、地元コミュニティーに入ることができずに消えるように引っ越していく。羽田さんは家族を捨てただけでなく、地元も捨てて、東京の片隅で貧困を抱えながら孤独に生きることを選択している。
母親からも父親からも「虐待」を受けた
「私は地元民ではあったけど、小学校の頃からイジメにあって。同性に囲まれてあらゆる嫌がらせをされた。まあ、死ねと言われるとか暴力だけど、そのときの記憶は全然ない。それで女性恐怖症になった。家庭もおかしくて、なんていえばいいんだろう。母親からは虐待、父親からは性的な虐待をされていました」
風貌は手塚治虫のリボンの騎士のような雰囲気だ。とくに表情を崩すわけでなく、さらりと言う。今は貧困と引き換えに身の危険のない生活を送っている。過剰に傷ついたり、深く悩む時期は過ぎているということか。
「性的虐待は小さい頃からで、1度や2度じゃなくて、大人になってもずっと。父親のことは今なんとも思ってないけど、それが性的虐待って自覚したのは短大生になってから。高校生までは、ずっとそれが普通だと思っていた」
性的虐待だけでなく、身体的虐待もすさまじかった。かんしゃく持ちの母親はささいなことで逆上して、ものすごい暴力をふるう。食器でぶっ叩かれたり、扇風機を投げつけられたり、そんなことが頻繁にあった。家出直前には包丁で腕を刺された。このままだと殺されると思って家出を決意したという。
「母親は絶対にダメです。本当に嫌。2度と会いたくない。だから一生逃げます」
強い口調で、そう言う。現住所がバレれば、父親と母親は車で駆けつけて、そのまま抑えつけられて北関東へ戻される。羽田さんは逃げ続けることを最優先に置いていた。そのモチベーションがあるので、過酷な貧困も乗り切れているようにみえた。
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