蒲田の小さな鮨屋が世界的名店になったワケ 世界的企業にも通じる「顧客価値」の再発見

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毎日笑顔で営業してきた中治夫妻。これからは回転鮨チェーンから高級すし店まで、さまざまな職人を招いてノウハウ、レシピを教えていきたいと話す(写真:飯塚昌太)

“何か困っていることがあるなら、それを解決しよう”

どんな事業でも、設立当初の発想、目標はとてもシンプルだったはずだ。

しかしながら、事業が拡大し、組織が大きくなり、さらなる成長を目指す中で、いつしか、“顧客を喜ばせたい”、あるいは“顧客が満足してくれる顔が見たい”といった部分が見失われていくことが多い。

「これからは多くの職人と交わっていきたい」と話す中治は店舗を改装。ニューヨークやシンガポール、香港の高級店に対抗できる店を目指したいという(写真:飯塚昌太)

“短期的なROI(投資した資本に対して得られた利益)を整える”ことを目標とし、数字目標を達成しやすい打算的なマーケティングを優先せねば、“結果としての数字”を出せないジレンマに陥るからだ。

もちろん、赤字垂れ流しでは事業は継続できない。しかしながら、“顧客価値とは何なのか”“自分たちが対価を得ている価値の源泉とは何なのか”を見つめ直したとき、そこに新たな気づきはないだろうか。

顧客価値とは何かを見失い、コストを切り詰めるために魅力を失っていく製品やサービス、それにより毀損されていくブランド価値と衰退する企業――。

新しい世代に向け“最高の笑顔を得る歓び”を伝えたい

さてこの初音鮨。2018年3月、女将のみえ子に“骨転移”が発見され、8カ月間休業していた。体幹部にある大多数の骨にがんが転移し、さらに肺にまでそれが広がっていることがわかったためだ。

『蒲田 初音鮨物語』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします) 

しかし放射線治療に耐えたのち、再び11月に初音鮨を再オープンした。理由は“未来”を見据え、自分たちが積み上げてきたものを、多くの料理人に体験してほしいと考えたからだという。

関東地区で回転ずしチェーンを展開するグルメ回転ずしの草分け「銚子丸」と提携し、幹部候補の職人を招き入れ、調理補助として自分たちのノウハウをすべて教えていく。全国の若手職人たちも、中治と同じツケ場に立ちたいと申し出ている。

2人だけで明日をも顧みない店だった初音鮨だが、現在は改めて“すしの未来を切り開く”場へと衣替えして営業が続くこととなった。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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