「介護保険を作った男」が語る舞台裏のドラマ 壁に当たるたびに、「新しい主役」が現われた

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また、介護保険制度には、当時新たに発明した制度的な仕組みが数多くあります。たとえば制度面では、高齢世代と現役世代を分けて、高齢者の保険料は市町村ごとに決める一方で、現役世代の保険料は全国一律に決めるという、地域保険と全国保険の「2層構造」。

また、高齢世代と現役世代の保険料の負担割合を高齢化率の上昇に応じて調整する仕組み、これは当時「自動安定装置」と呼ばれたもので、高齢化が進展しても現役世代の負担が高まらないようにする仕組みです。さらに、世界的に見ても前例のない、当時でも200万人に達する要介護高齢者を対象に、コンピューターによって判定を行う「要介護認定」の仕組みなどです。

こうした制度や仕組みがどのようにして考案され、実施に移されていったか、また、その成果とともに限界は何かを知ってほしいと思います。その点で、この本が今後も予想される介護保険制度をめぐる議論に参考になればと願っています。

さらに、制度面だけではありません。介護現場で働いている介護専門職の方々にとっても参考になる本だと思います。たとえば、介護保険制度で初めて導入された職種に「ケアマネジャー」がありますが、その基礎となった「ケアマネジメント」の考え方は、「ケースマネジメント」と「ケアプラン」という2つの異なる発想の理念が融合してできたことや、ケアマネジャーの「専門性」と「独立性」の両立という課題が、制度導入当時からさまざまに議論されてきたことが詳しく紹介されています。

制度創設の背景

――介護保険制度が創設された背景は、何ですか。

山崎:一言で言えば、介護が日本の個人や社会において大きな課題になっていく中で、それまでの社会保障制度では十分に対応しきれなかったということです。

わが国は、1980年代以降、高齢化の進展に伴い要介護高齢者が増えていきましたが、その状況に対して従来の老人福祉や医療保険制度は適切に対応できなかった。その結果、家族の負担の深刻化や寝たきり老人の増大などの問題が生じ、それを解決するために創設されたのが介護保険制度でした。

世界に先駆けて高齢化を迎えた日本が、高齢者とその家族を支えるものとして考案した社会保障システムが介護保険制度であり、それを2000年に導入したのは適切な判断だったと考えます。その後高齢化は一層進展し、高齢化率が3割近くの超高齢社会に突入しましたが、今や多くの高齢者や家族にとって「介護保険がない老後生活」は想定できない、と言っても過言ではないと思います。

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