野村克也「メモを取る習慣が弱者を強くする」 長く結果を出し続けるには勘では足りない

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捕手が配球を考えるとき、選択肢は大きく分けると次の形になる。

・インコースか? アウトコース?
・高めか? 低めか?
・ストレートか? 変化球か?
・ストライクか? ボールか?

捕手が「投手に何を投げさせるか?」を考えるのは、これらを組み合わせた16種である。ゲームはいま何イニング目か? 点差は? ボールカウントは? アウトカウントは? さらにその打者は前の打席でどのような対応をしたか? あるいは前の投球にどのように対応したか? ベンチからのサインは? 捕手はそういったことをすべて考慮したうえで、投手に「次はこのボール」とサインを出すわけで、そこには確かな根拠がなければならない。

だから私が古田や嶋にその根拠を問うたとき、彼らが「直感で……」とか「何となく……」というような返答をしてきたときには「何を言っとるんだ!」と叱りつけることもたびたびあった。

結果よりもプロセスが大事

私は現役時代から捕手としてつねに「結果よりもプロセスが大事」と思ってやってきた。適当に出したサインで相手打者を抑えたとしても、次に生かすことのできない根拠なき配球では何の意味も持たない。根拠のある配球なら、たとえ打たれたとしてもその失敗を次に生かすことができる。

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これは野球に限らず、いろいろな仕事においても同じことが言えるのではないだろうか。「結果を出せば何をしてもいい」とばかりに仕事をしていても、そのような適当なやり方では長く結果を残し続けることは決してできない。

プロセスを大切にしたいなら、常日頃から「〇〇とは?」と問題意識を持って考え、自分なりの答えをメモし続けることが重要である。

毎日、何でもいい。「この仕事の意味は?」「利益を上げるには?」「どうやったら相手に喜んでもらえるか?」そういったことを問い続け、自分なりの答えをメモしてみたらどうだろう。同じ質問でも、時が経てば答えが変わることもある。その変化を「自分の成長」として確認できるのも、メモの大きな利点といえよう。

長く結果を出し続けている人、あるいは社会から評価される成功者たちは皆つねに「〇〇とは?」と根拠を問い続けている。皆さんにもぜひ、そんな「プロセスを大切にする生き方」をしてほしい。

野村 克也 野球解説者

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のむら かつや / Katsuya Nomura

1935年京都府生まれ。京都府立峰山高校卒業。1954年、テスト生として南海ホークス(現福岡ソフトバンクホークス)に入団。3年目でレギュラーに定着すると、以降、球界を代表する捕手として活躍。1970年には南海ホークスの選手兼任監督に就任し、1973年にパ・リーグ優勝を果たす。1978年、選手としてロッテオリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)に移籍。1979年、西武ライオンズに移籍、翌1980年に45歳で現役引退。27年間の現役生活では、三冠王1回、MVP5回、本塁打王9回、打点王7回、首位打者1回、ベストナイン19回と輝かしい成績を残した。三冠王は戦後初、さらに通算657本塁打は歴代2位の記録である。1990年、ヤクルトスワローズの監督に就任。低迷していたチームを立て直し、1998年までの在任期間中に4回のリーグ優勝(日本シリーズ優勝3回)を果たす。1999~2001年、阪神タイガース監督。2006~2009年、東北楽天ゴールデンイーグルス監督。現在は野球評論家として活躍。著書に『野村ノート』『エースの品格 一流と二流の違いとは』(いずれも小学館)、『野村の流儀』(ぴあ)、『野村再生工場 叱り方、褒め方、教え方』(角川書店)、『なぜか結果を出す人の理由』(集英社新書)、『侍ジャパンを世界一にする! 戦略思考』『運』(いずれも竹書房)など。

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