野村克也「メモを取る習慣が弱者を強くする」 長く結果を出し続けるには勘では足りない
現役時代、ほぼ毎日メモを取り続けていた私だが、ではいったいどのようなメモを取っていたのか、ここで具体的にご紹介したいと思う。
先述したように私がメモしていたのは主に相手打者の長所、短所、そして投手のクセといったものである。とくに「投手のクセ」は短期間で変わる(その投手がクセを見破られていることを察し、フォームを変える)ことが多く、メモを見直してはその都度、変更点を書き込むようにしていた。
ある投手のクセとして当時の私はこんなことを書いている。
ワインドアップで帽子のマークが見えないとストレート、見えるとカーブ。
ワインドアップとは、投手が投球動作に入る前に両腕を頭の上に掲げるフォームのことで、この時、ボールの握り方によって両腕の開き具合にちょっとした差が出る。私はそういった投手のクセに気づくたび、メモを取るようにしていた。ちなみにその投手に関しては後日、メモに赤字で「ワインドアップでのクセは修正されている」と記している。このように私は投手のクセの変化を見逃さないよう、つねに細心の注意を払って観察し、新しい情報を得るとすぐに書き直していた。
投手のクセはフォーム以外にも、捕手の出したサインにうなずくときの「うなずき方」などにも表れた。元読売巨人軍の西本聖投手は切れ味鋭いシュートで打者を打ち取る好投手だったが、その球種に人一倍自信があるものだから捕手がシュートのサインを出すといつも以上に深くうなずくことが多かった。
プロセスを大事にする人はメモを残す
投手によっては自分が不得意な球種、あるいはその日の調子がイマイチな球種を要求された際に「自信のなさそうなうなずき方(あいまいなうなずき方)」をする投手もいた。私は肉体的な変化に加え、そういった「投手の性格」も把握しながらクセを見抜くようにし、それを毎日メモしていた。
手前みそだが、私は投手のこうしたさまざまなクセを見破るすべに長けていたのだと思う。だからこそ、戦後初の三冠王や通算本塁打657本、通算安打数2901本(ともに歴代2位)という好成績を収めることができたのだろう。
ヤクルトスワローズで監督をしていた時の正捕手の古田敦也、さらに楽天イーグルス時代の正捕手・嶋基宏、この2人に私はいつもベンチで語りかけていた。守備から帰ってきた彼らに対し、「あの時投げさせた球種、コースの根拠は何や?」と。
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