思うにわれわれが知る「IT革命」には、20世紀版と21世紀版があった。20世紀版のIT革命は、パソコンや携帯電話といったハードウェア中心に進んだ。1990年代後半に電子メールやホームページ、エクセルや「パワポ」などが短期間に普及し、「ウィンテル」と呼ばれるマイクロソフトやインテルが持て囃された。この時期は日本企業もまだ元気で、ソニーや任天堂は十分に「勝ち組」に属していたと言っていいだろう。
ところが、「IT革命で確かに便利にはなったけど、どうやってカネを稼ぐのよ」という点に答えがなかった。新興のネットベンチャーがいくら時価総額を膨らませても、持続的にキャッシュを生み出す仕組みは作れなかった。かくして2000年春、アメリカでは「ミレニアム相場」に沸いていたナスダック市場が失速し、日本ではソフトバンクや光通信の株価が地に落ちた。ハイテク産業の復活には長い時間を要することになる。
21世紀版のIT革命は「バラ色」なのか?
それとは対照的に、21世紀版のIT革命はソフトウェア中心で静かに進行した。特にアップル社が送り出した数々の新製品は、新しいサービスのプラットフォームとなった。この間に普及したのがeコマースであり、SNSであり、音楽や動画配信サイトであり、電子決済などである。さまざまな方法で「課金」システムが生み出されたので、新しい国際標準を生み出す”GAFA”企業は向かうところ敵なしとなった。
そんな中で日本企業は、アリババやテンセントといった中国企業の後塵を拝し、遺憾ながら「下請け」の立場に甘んじている。かろうじて半導体製造装置などを得意分野としているものの、それも今回の「アップルショック」の直撃を受けることだろう。
現在進行中の21世紀版IT革命は、AIやビッグデータ、5Gなどによる次なるステージへと続くと目されている。最近ではお役所の文書の中にまで、「第4次産業革命」とか「Society 5.0」といったバズワードが登場する。しかるにその先に浮かぶ未来は、かならずしもバラ色ではないのではないか。自動運転が実現し、交通渋滞が解消するといったポジティブな変化は大いに結構。ところが最近の中国で実際に起きたように、数万人規模のコンサート会場からたった1人の指名手配犯が画像認証技術によって割り出される…といった事案を聞くと、そんな世の中は勘弁してほしいと思いたくなる。
管理社会の下で個人のプライバシーは失われ、一握りのエリートが富を独占し、技術を持たない人は移民やAIに職を失われる……いや、そうなる以前に、日進月歩のハイテク機器に全然ついていけなくて哀しい思いをしている、という人は少なくないだろう。
21世紀版のIT革命は、そろそろこの辺で調整期を迎えてもいいのではないか。次なるイノベーションを受け入れられるほど、人間社会は成熟していない。GAFA礼賛論もそろそろ鼻についてきた。AI社会の到来も、もう少し先でいい。マーケット的には少々、痛い思いをするかもしれないが、米中新冷戦はかかる変化を遅らせてくれる天の配剤かもしれない。2019年が、本当の意味で「亥固まる」年になってくれることを望むところである。
(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が、週末の人気レースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら