害獣の「猪」を特産品に変えた石川の創意工夫 農家にとって「激増する猪被害」は死活問題

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続いて皮をはぎ、洗浄してから骨を除き、ブロックに切り分けた後、金属探知機で異物がないかを確かめ、真空パックに密封して急速冷凍し、保存する。

「解体に手間取ると、肉の味が落ちます。獣臭さや血生臭さが残り、まずくなる。我流ではだめです。手早く解体処理し衛生管理され安全なおいしい肉でないと、特産品として提供できません」

「のとしし」としてブランド化

羽咋市の獣肉処理施設では2016年度に300頭、2017年度は340頭のイノシシを解体し、2016年度は4トン、2017年度は4.8トンの食肉を販売した。同市内の飲食店や道の駅などでは、ぼたん鍋のほか、イノシシを使ったカレー、カツや、ソーセージなどの加工品が販売され、人気を集めている。メニューの名称は「のとししカレー」など「のとしし」と入れることで、地元で捕獲されたイノシシが使われていることをアピールしている。マークやキャラクターを作ることでも、ブランドの認知度は高まってきた。

羽咋市は「害獣」を食肉として活用することには成功したが、まだ悩みはあった。それは、皮、骨、内臓など廃棄しなくてはいけない部分が多いこと。解体すると1頭の半分以上の重量の産業廃棄物が出るため、これまでは産廃処理業者に処分を依頼し、その費用は年間100万円以上の負担になっていた。そこで同市では「自然の恵みを大切にしよう」と知恵を絞った。

アイデアを生かして実現にこぎ着けたのが、イノシシの皮の活用である。都内にある専門の業者に依頼して皮をなめし、着色してもらったものを材料とし、髙田さんは名刺入れやキーホルダーなどの試作を始めた。作り方は、ネットで調べて見よう見まね。道具も試行錯誤しながらそろえた。

イノシシの革と加工のための道具(筆者撮影)

イノシシの皮は、体長が大きいものだと厚く、小さいものだと薄くなり、体の部位によっても質感が違う。それがかえって味のある手作りの風合いを醸し出し、人気を集めている。

夫が猟師で、食育アドバイザーとしてジビエの普及に当たっている中村恵美さん(32歳)も革細工の製造・販売を手掛ける。「自分が欲しいものを作ろう」とイヤリングやキーホルダーを制作していたところ、女性からの人気が集まり、販売するようになった。イノシシの革を使った製品について、いろんなアイデアが浮かぶという。

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