問題だらけで年越し「中東」は2019年も危うい サウジもシリアも問題は片付いていない

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トルコは、クルド人民兵勢力に対する攻撃態勢を整えており、アメリカの後ろ盾を失うクルド人たちはIS掃討戦を放棄し、トルコ軍とクルド民兵の間で戦闘が激化しかねない。さらには、クルド側が拘束している約1000人のIS戦闘員が混乱に乗じて逃げ出すおそれもある。

アメリカ軍の撤収がシリア内戦の勢力バランスに与える影響は、トルコとクルド民兵の対立にとどまらない。シリア北部イドリブ県は、反体制武装勢力の最後の有力な拠点になっているが、アメリカ軍という重しがなくなることで、シリア政府軍が総攻撃に踏み切る可能性もある。

2018年の外交的な勝者はトルコ

シリアに兵を置くロシアやイランもアメリカ軍撤収によって影響力を強めることは確実。イスラエルにとっては、イランの脅威がさらに高まることになり、軍事的な圧力を強めざるをえないだろう。

2018年の外交的な勝者はトルコだ。トルコは、イスラム大国の地位を争うサウジアラビアの威信を、カショギ氏殺害事件を通じて打ち砕くことに成功した。サウジアラビアとの同盟関係を中東安定の要石とするトランプ政権からこの事件を通じて譲歩を引き出し、クルド民兵掃討作戦に道を開くアメリカ軍撤収にとどまらず、地上配備型迎撃ミサイル・パトリオット(PAC3)の改良型「PAC3MSE」の調達を確実にした。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコは、ロシアにも接近することで、米ロ対立を利用して外交的な利益を促進してきた。ロシアから最新鋭地対空ミサイルシステムS400を購入する意向を示してきたが、これをどうするのか。

アメリカ軍がシリアから撤退することで、中東でロシアが影響力を強めることになり、ロシアとの関係も軽視できない。クルド民兵に対する不用意な軍事作戦も泥沼を招きかねない。2019年は、米ロに対する二股外交のソフトランディングに向け、エルドアン大統領の手腕が問われそうだ。 

池滝 和秀 ジャーナリスト、中東料理研究家

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いけたき かずひで / Kazuhide Iketaki

時事通信社入社。外信部、エルサレム特派員として第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)やイラク戦争を取材、カイロ特派員として民衆蜂起「アラブの春」で混乱する中東各国を回ったほか、シリア内戦の現場にも入った。外信部デスクを経て退社後、エジプトにアラビア語留学。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程(中東政治専攻)修了。中東や欧州、アフリカなどに出張、旅行した際に各地で食べ歩く。現在は外国通信社日本語サイトの編集に従事している。

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