獣や魚がどうなのかは知らない。だが古今東西、老若男女、人が悩み、迷うのは確か。“戦う哲学者”中島義道氏が開く人生相談道場に“同情”はない。ここにあるのは、感受性においてつねにマイノリティに属してきた中島氏が、壮絶な人生経験を通じて得た、ごまかしも容赦もない「ほんとうのこと」のみ。“みんな”の生きている無難な世界とは違う哲学の世界からの助言に、開眼するも、絶望するも、あなた次第である。
※中島義道氏への人生相談はこちらから
【vol. 8】
先生、はじめまして。30代半ばの主婦です。
普段、温厚な主人ですが、時々、吐く冷たい言葉に悩んでいます。これからも人生を共に歩んでいきたいと思っています。よろしくお願いします。
結婚して3年目。1歳の息子がいます。
先日、家族3人で帰国し、飛行機から降りたときのことです。9キロになる息子を抱いて飛行機から降りました。空港までバスで移動するわけですが、バスが満席でした。仕方なく左手に息子を抱きかかえ、右手で吊り革を持ち、揺れる車内をなんとかケガなく過ごしました。主人は隣で手荷物を持ち、真横で「腕がちぎれそう!」と困る私を助けるわけもなく、話しかけてきます。
バスが空港に着き「誰も席を譲ってくれなかった。腕が痛い」と訴えましたが、返ってきた言葉に失望しました。「大丈夫かと思うじゃないか。アピールしなかった君が悪い。席を譲ってって言えばいい」。真横で嫁が必死に吊り革につかまって揺れる車内を耐えているのにです。夫として何もしなかった自分は悪くないような顔をしていました。
こんなトンチンカンな人だとは思っていませんでした。自分は悪くないし、周りが悪い。そんなふうに主張することがたびたびあるので、私が悪いのかと思ってしまいノイローゼになるときがあります。言い返すと屁理屈を並べて攻め立てます。
疲れました。助けてください。
今回のご相談ほど身につまされるものはありません。「夫」と言いながら、まるで私のことを責めているようです。私もあなたのご主人とほぼ同じ「反応」をするのであって、何度も妻から見限られてきました。そして、私の父もそうでした。私は父を恨み続けていた母を嫌い、そうさせていた父を嫌っていたのですが(死語15年をこえた今でも嫌っている)、結婚してみると、やはり(ほかにモデルがないので)父のようになりました。根本のところで妻に対して「思いやり」のない人間であり、その結果、父を罵倒していた母と同じ台詞が、テープを巻き戻したように、同じ口調で妻の口から私に浴びせかけられます。
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