前回のアーモンドアイの稿でも述べたが、これまでの常識にとらわれないステップレースの選択も功を奏している。アーモンドアイはトライアルを一度も使うことなく牝馬3冠を制した。同ファームの今秋のGⅠ制覇で最も印象的だったのは菊花賞のフィエールマンだろう。ラジオNIKKEI賞2着から3カ月半の休み明けで結果を出した。
しかも、距離経験は1800mまでの馬が3000mの長丁場で勝った。1日約4000mのキャンターを消化する豊富な運動量と栗東並みの坂路でしっかりと追って息をつくる調教で結果を出した。
アーモンドアイがトライアルを使わずにぶっつけ本番で秋華賞に臨んだのはジャパンCにベストの状態で出走するためだった。「常識破りのローテーション」と言われた秋華賞直行はジャパンCを勝つための戦略でもあった。今回は秋華賞からの反動を見極め、念入りに経過を観察した。
秋華賞直後にはオークス直後と同様に熱中症の症状を見せて馬がフラつく場面も見られた。動きが柔らかく後ろ脚で前脚を蹴ってしまうため、ケガを防ぐように前脚にはクッションを入れた特殊な蹄鉄を装着した。
ノーザンファーム天栄での調教の成果も
天栄の木實谷雄太場長(38)は「一時はジャパンCで使えないんじゃないかと心配したが、今回は思っていた以上に回復も早かった」と振り返る。もともとレースを使えば疲れが残るタイプだったが「馬がしっかりしてきた」と成長を認める。心拍数や食事の量など各馬のデータをきっちりと管理し、ウォーキングマシン、トレッドミル、ダートコース、坂路を使ってレースの疲労を取りながら、再びレースへ向けて調整のピッチを徐々に上げていく。出走へ向けての中継地点でもある夏場にゆったりしたキャンターを消化しながら、手前をきっちりと替えることも教え込んだ。
春は桜花賞もオークスも直線で何度も手前を替えていたが、秋華賞では直線で一度しか替えなかった。これも同ファームでの調教の成果だ。アーモンドアイは寒さが得意でないために今回は調教時間を早朝から昼前に移す工夫もあった。国枝調教師と木實谷場長は東京農工大の先輩後輩の間柄でもある。信頼関係で結ばれ、両者の密な意思疎通がアーモンドアイの成功の礎となった。
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