「母の孤独死」42歳男に突如訪れた壮絶な現場 増加する単身世帯、誰の身にも起こりうる

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孤独死の典型例をひとつご紹介したが、実は意外なことに、孤独死についていまだ明確な定義が定まっていない。

孤独死という単語は、2006年に大辞林(第三版)に、2008年に初めて広辞苑(第六版)に正式に収録された。「看取る人もなく、1人きりで亡くなる」という意味で、孤独死という言葉が市民権を得たわけである。それまで、広辞苑には孤独という単語しかなかった。

つまり2000年代後半に入って以降、孤独死というキーワードが世間的に定着し、無視できないものになったということの表れだ。

東京都監察医務院では、「孤独死」を「異状死の内、自宅で死亡した一人暮らしの人」と定義している。通常、人が亡くなった時点で、最初から病死と判明さている場合は、自然死として処理される。異状死とは、自殺や事故死だったり、そもそもの死因が不明だったりする遺体のことだ。この異状死に該当すると、解剖などが行われることになる。

東京都監察医務院は東京23区内で異状死が出た場合に解剖を行う機関だが、そこでは、この「異状死」のうち、自宅で亡くなった数を孤独死としてカウントし、その統計を毎年公表している。この統計が孤独死の数を知る数少ない手掛かりとなっている。

それを見てみると、東京23区において1987年には、男性788人、女性335人であったものが、ほぼ20年後の2006年になると、男性では2362人、女性では1033人となっており、20年前に比べて約3倍にも膨れ上がっている。

遺族にとって孤独死は「メガトン級のトラウマ」

孤独死は、残された遺族にとって悲惨であることは間違いない。

前出した和彦さんの奥さん・さおりさん(仮名)は、孤独死について、そのあまりの衝撃的な体験を「夫や私たちにとって、一生引きずっていかなければならないメガトン級のトラウマになった」と表現した。これは、孤独死がいかに家族に大きな傷を残すかをシンプルに表した言葉だと思う。

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家族は、生涯、なぜ連絡を取らなかったのかとずっと自分を責め続け、夏場なら腐敗によって強烈な臭いがして、部屋に入ることもままならなくなる。それだけでない。その被害は周囲にも及んで、アパートやマンションだと隣人は引っ越しを余儀なくされることもある。警察の家族への事情聴取は、致し方ないとはいえ、家族関係を根掘り葉掘り聞かれることから二重にショックを受けることになる。

今回、和彦さんの一家が支払った掃除代金は、108万円。遺品整理の分を除くと約半分だというから、金銭面ではやはり多額の清掃費用がかかることとなる。社会の貧富の二極化がますます進み、貯蓄ゼロ世帯が急増していく中で、このような負担は過酷なものである。

2030年には、3世帯に1世帯が、単身世帯となる計算となる。

単身世帯が右肩上がりで増え続ける現在、孤独死は、誰の身に起こっても不思議ではない。

孤独死の現場は、私たちの未来を映し出しているかもしれない。

菅野 久美子 ノンフィクション作家

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かんの・くみこ / Kumiko Kanno

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経て、2005年よりフリーライターに。単著に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国』(双葉社)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(KADOKAWA)『母を捨てる』(プレジデント社)など。

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