マイクロソフト「中国AI研究所」最高峰の実力 中国エリート学生を惹きつける魅力は何か

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開発された技術は、マイクロソフトの実製品に組み込まれている。ビデオ通話の「スカイプ」ではリアルタイム翻訳ができたり、表計算ソフト「エクセル」では紙に印刷された表を画像認識AIで取り込めたり、といった具合だ。さらにクラウドインフラサービス「アジュール」では、開発者が画像・音声認識などのAI機能を自分のアプリに簡単に実装できるサービスを提供している。

MSRAのシャオウェン・ホン所長は、「マイクロソフトの長期的なビジョンとコミットメントがなければ、これだけの成果は出なかった。AI分野における才能あふれた人材の育成を長年続け、新たなアイデアを素早く形にすることに取り組んできたからこそだ」と自信を見せる。

MSRAのシャオウェン・ホン所長は20周年記念式典で、これまでの数々の実績をアピールした(記者撮影)

その背景には、創業者であるビル・ゲイツ氏の意向があった。ゲイツ氏がビジョンとしていたのは、「コンピュータがいつの日か、視覚や聴覚を持ち、人間を理解できるようにすること」。ホン氏は、「20年前のビルが、AIの将来をわかっていたというわけではない。ひたすら夢を追い続けただけだ」と振り返る。

音声認識技術を専門とするホン氏が米カーネギーメロン大学で博士号を取得したのは、1990年代初頭だ。いわゆる「AIの冬」と呼ばれる時代で、「就職に響くから、表立ってAIを研究していることは言えなかった」(ホン氏)。そんな中で1991年、マイクロソフトはMSRの設立を決めた。

ビル・ゲイツは中国を重視した

ゲイツ氏が初めて中国を訪れたのが、1994年。MSRAの設立は、そのときにゲイツ氏が江沢民・国家主席(当時)と面会したことがきっかけとされる。中国メディアは「世界一の富豪、中国へ謎の旅」という見出しで、ゲイツ氏の初の訪中を報じた。その後もゲイツ氏は頻繁に中国を訪れ、政府高官との面会だけでなく、北京大や清華大にも足繁く通い、教授や学生との対話の場を持った。

MSRA20周年記念式典に登壇した、北京大学の郝平(ハオ・ピン)学長(記者撮影)

2007年のゲイツ氏の訪中では、北京大から名誉理事の称号を、清華大から名誉博士号を贈られるなど、異例の厚遇を受けた。今回の記念式典に登壇した両大学の学長は一様に、ゲイツ氏の功績をたたえる発言を繰り返した。それだけゲイツ氏は、AIなどコンピューターサイエンスにおける中国学術界の重要性を意識していたといえる。

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