たとえば、車やスマートフォンなど、身近な製品で考えてみよう。学生は完成品の販売元であるメーカーを就職先として連想しがちだが、製品を構成する部品や機械を作っているのはBtoB企業だ。「日ごろ接している製品・サービスを裏方として支えているBtoB企業に注目してみると、進路選択の幅は一気に広がるはずです」(吉田氏)。
一方、「人事の観点」から企業の見方について語ったのは、同じくリサーチ・コンサルティング部門の太田壮祐シニアマネジャーだ。企業の人事組織の改革を専門としている。太田氏が勧めるのは「業種と職種(仕事内容)を掛け合わせて考える企業選び」だ。
たとえば食品業界の商品開発職を志望する学生が、晴れて食品メーカーに就職できたとする。しかし入社後、商品開発に携われる保証はない。太田氏は「自分の希望はいつどの程度かなうのかを理解しておかないと、入社後にミスマッチが起きる可能性は高い」と話す。つまり、業種(食品)と職種(商品開発)のどちらに比重を置くかで、企業の選び方は違ってくるというわけだ。太田氏は「配属に関する実状や仕事内容の実態など、外部から判断しにくい情報こそ、OB・OG訪問などで引き出すよう心がけてほしい」と提案する。
「学生が注目すべきは、ずばり、企業の『営業利益率』の高さです」。コンサルタントらしく数字の観点から話の舵を切ったのは、財務や経営管理が専門の高津輝章シニアマネジャーである。「時代がどう変わろうとも、財務に関する指標は就職先を見極める上で役立つ」を信条とする。
企業の実力は営業利益率で見る
営業利益とは売上高から営業活動にかかるコストを差し引いた額だ。プラスであれば、営業活動を行って利益が残る黒字の状態で、マイナスなら、出費のほうが多くなる赤字の状態ということ。そして営業利益率は、売上高に占める営業利益の割合で、いかに効率的・効果的に儲けを出しているかがわかる指標だ。そのため営業利益率の高さは、経営が順調か否かを測るうえで重要な目安となる。
高津氏は「営業利益率が高い企業は、知名度はなくても、確かな実力がある。値段が高くても売れるような付加価値の高い商品・サービスを手がけている可能性が大です」と説明する。企業研究の一環として、インターネットで「営業利益率 ランキング」などと調べてみると、意外な企業が上位に入っていて参考になるという。
「定量的な指標として、研究開発費の比率も参考になるかと思います」。そう語るのは日本総研の「未来デザイン・ラボ」に所属する田中靖記シニアマネジャー。将来的な経済動向の予測や消費者の動態変化などを基に、企業の中長期戦略の策定や、新規ビジネスの戦略立案を提案する仕事をしている。
研究開発費とは、企業が新しい製品やサービス、あるいは既存品の改良のために投資する費用のこと。目先の売り上げや、短期的な利益の回収よりも、将来的な事業の芽を発掘する意味合いが強い。田中氏は、「長期的な投資と短期的な改善の2つの意味合いがある」と前置きしつつ、「研究開発費の比率が売上高に対して大きい企業は、未来への投資に熱心だと言える」と分析する。研究開発費は、上場企業であれば「有価証券報告書」などの株主向け資料に、東洋経済新報社発行の「会社四季報」などに、掲載されている。
未来への投資という観点では、こんなアドバイスもあった。太田氏は、米国のシリコンバレーには「失敗をしないと恥だ」という文化があることを引き合いに出し、「日本企業は、伝統的に失敗を許さない体質の企業が多かったのですが、変わりつつあります。挑戦がなければ失敗はありませんし、失敗から多くを学んだ人ほど、大きく成長できると認める動きが加速しています」と指摘する。