ノーベル経済学賞教授のCO2削減案に批判も ノードハウス教授はより現実的な対策を支持

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ノーベル経済学賞の受賞が決まり会見するノードハウス教授(写真:AP/アフロ)

今年のノーベル経済学賞はイェール大学のウイリアム・ノードハウス教授とニューヨーク大学のポール・ローマー教授が受賞した。気候変動(地球温暖化)の経済学を創始し早くから炭素税を提唱してきたノードハウス教授は、1941年に生まれ、1967年にマサチューセッツ工科大学で博士号を取得し、今なお、現職教授として精力的に研究活動を行っている。故ポール・サムエルソン教授と共著で第12版以降の世界的な教科書『経済学』を執筆していたと言えば、知っている人も多いのではないだろうか。

受賞が発表された10月8日は、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)が「1.5度特別報告書」を公表し、地球温暖化の深刻さと国際的な速やかな対策が必要であることを訴えるという偶然も重なり、地球温暖化に世界の注目が集まった。

言うまでもなく地球温暖化は、大気中の二酸化炭素などの温室効果ガス濃度が上昇することで引き起こされる。産業革命以前と比べて、平均気温は約0.85度上昇してしまった。その原因が経済活動を主とする人為的なものであることは科学的に確実視されている。さらに、何らかの対策をとらなければ、破局的な状況が起こる可能性もあると予想されている。

温暖化経済学を創始、炭素の社会的費用を導出

この地球温暖化問題に対し、世界はどのような対策をとればいいのか。ノードハウスは、1970年代よりこの問題に取り組んできた。いわば「温暖化経済学」の創始者である。ただし、その当時は地球温暖化の危機を叫ぶ人はオオカミ少年と呼ばれている、と1977年に発表した論文に記しているほど、疑わしいものだった。

経済学では、ある経済活動が引き起こす社会全体にとっての費用を、社会的費用と言う。地球温暖化問題では、炭素およびほかの温室効果ガスを排出する経済活動により引き起こされる被害が、社会的費用ということになる。

このような社会的費用があるとき、化石燃料を大量に使用し過大な炭素排出を行う従来の成長戦略は認められるべきなのか。ノードハウスが温暖化研究に着手した当時、環境経済学の主要テーマの1つは、経済政策の評価を行う際の費用便益分析の「費用」の部分に、それまでは組み入れられることがなかった環境被害等の社会的費用を加えて、真の社会厚生に対する効果を測定しようとするものだった。ノードハウスの着手した研究も、この線に沿って、炭素の社会的費用を導出しようとするものだった。

社会的費用がわかれば、たとえば、従来型の経済成長戦略の真の評価ができるだけではない。理論的には、二酸化炭素1トン当たり、この社会的費用に等しい水準の税率を課すことで、パレートの意味での効率的な経済が実現されるのである。この課税を最適炭素税という。このように、温暖化対策として炭素税という発想が生まれたのは、ある意味で自然である。

注)パレートの効率性:ある状況を改善しようとすれば、別の状況を悪化させることになる。つまり資源が最大限に利用されている状態をいう。パレート最適ともいう。
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