ノーベル経済学賞教授のCO2削減案に批判も ノードハウス教授はより現実的な対策を支持
ノードハウスの研究は地球温暖化問題への関心の高まりとともに影響を強め、ウィリアム・クラインやサム・フランクハイザーなど多くの研究者が同様の研究に参入していった。DICE・RICEモデルはIAM(Integrated Assessment model、統合評価モデル)と呼ばれる。IAMは単純化された部分も多いものの有用性は高く、IPCCによる評価でもその分析は重要視されてきた。また、世界の多くの研究者により、さまざまなIAMが開発され、政策シナリオの評価に貢献してきた。
炭素の社会的費用についてのノードハウスの研究は、1970年代に始まり今に続いている。ここでは今年発表された最新の結果を紹介する。
最適削減を行うことを考えると、炭素の社会的費用は、2015年にCO2・1トン当たり30ドル(約3300円)と導出されている。費用は年率約3%で上昇し、2020年に35ドル、2050年には100ドルとなる。一方、平均気温上昇を摂氏2.5度以下に収めようとすると、社会的費用は急上昇する。2015年にCO2・1トン当たり184ドルであり、2020年には229ドル、2050年には1006ドルに達する。政策シナリオにより費用が大きく異なるのである。
さて、こうして導出した社会的費用に基づき、ノードハウスは、排出削減政策はペイするという結論をモデルのバージョンにかかわらず示してきた。上記の分析では最適削減経路において、2100年時の気温上昇は摂氏約3.5度(大気中の二酸化炭素濃度が約660ppm)になる。つまり、この全球気温(地球全体の平均的な気温)目標を結果的に最善とすることが、ノードハウスの議論から導かれることになる。
また、今世紀半ばに年間約400億トンに達し、その後約100億トンまで減少させる温室効果ガスの排出量によりこの目標が達成されるとした。同時に排出削減率についても、対策初期の時点は十分に低く、その後上昇する経路を指示している。
より現実的な対策を支持することへの批判
ところが、パリ協定では産業革命以前に比べた地球平均気温の上昇を摂氏2度未満に抑え、安定化させようとする「2度目標」(大気中の二酸化炭素濃度が450ppm)が掲げられている。そのため、今世紀後半には排出量をマイナスにする、つまり排出を抑えるだけではなく、何らかの手段で大気中から大量に吸収することが必要となっている。さらには、冒頭のIPCC特別報告書では、よりリスクの低い1.5度未満に抑えることの緊急性が訴えられている。
これに対し、ノードハウスは、2度目標の達成は技術的には可能だが、極端とも言っていいような全球的な政策手段の導入が必要であるとして、否定的である。さらには、目標が2.5度未満であっても、非常に厳しい非現実的な削減政策が必要であると結論づけている。つまり、ノードハウスのノーベル賞の受賞とIPCC『1.5度報告書』の公表は同じ日ではあったが、両者が温暖化対策で同じ陣営に属しているということではないのである。
このように、ノードハウスの示す結論の特徴は、野心的な温暖化対策を退け、より現実的な対策を支持することである。この点で、ノードハウスに対してさまざまな批判が向けられている。なぜこのような結論が導かれるのだろうか
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