ノーベル経済学賞教授のCO2削減案に批判も ノードハウス教授はより現実的な対策を支持

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ノードハウスは、実際に炭素の社会的費用を計算しようと工夫を重ねて行った。

炭素を排出することの被害とは何か。被害は排出された炭素が大気に蓄積され平均気温が上昇することによって、将来に発生する。そうであれば、現在から遠い将来まで続く経済モデルで議論しなければならない。さらに、現在の炭素排出が将来に影響を持つまでの連関を具体的に記述することが必要である。

こうして、ノードハウスは、のちにDICEモデル(Dynamic Integrated Climate-Economy model気候と経済の動学的統合モデル)と呼ばれる全世界モデルを構築した。このモデルは、1993年に論文として発表されたもので、特徴は以下のとおりである。

資本蓄積のある最適経済成長モデルにおいて、炭素排出量はGDP(国内総生産)と比例関係にある。削減努力を行うことで排出量を減らすことができるが、削減量に応じて削減費用が発生する。一方、排出された炭素の一部は陸上と海洋で吸収されるが、残りは大気に蓄積され気温上昇に影響を与える。この気温上昇によって被害が発生する。人々の福利は消費水準と被害水準によって決まる。

炭素の最適削減経路と政策を提示

このように経済部門と環境部門が相互に連関したモデルで、ノードハウスは、現在から以後のすべての世代の福利の割引現在価値の総和を最大化する最適削減経路を導出した。そして、この最適経路を基準にして地球温暖化対策のさまざまな政策シナリオを比較した。なお、ノードハウスはより現実に沿った方向でDICEモデルの改良を続け、たとえば2013年からは「バックストップ技術」として新たな脱炭素技術の出現可能性も取り入れている。

ちなみに、1993年論文のタイトルは”Rolling the ′DICE'”すなわち「DICEモデルを回す」というものだが、「サイコロを振る」という意味にも取れる。当時は、地球温暖化が本当に起こるのか確定的なことが言えるほど科学的知見の蓄積は進んでおらず、地球の気候の将来は深い不確実性のベールに覆われていた。世界はどんな政策を取ればいいのか。それはまさにサイコロを振るようなものだったのだ。当時の状況が伝わってくるようで興味深い。

また、ノードハウスは同じ時期に、単一世界モデルではなくRICEモデル(Regional Integrated model of Climate and the Economy)と名づけられた地域の統合モデルを提示した。RICEモデルもDICEモデルと同様に有用性が高く、ロシアなど温暖化により得をする地域もあるといった、地域別の温暖化の影響を見るのに適している。当時の研究内容は『地球温暖化の経済学』(室田泰弘ほか訳、東洋経済新報社、2002年)にまとめられている。また、このモデルで解を求める手法として、根岸隆東京大学名誉教授の行った研究が重要な役割を果たしている。

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