意見と事実が区別できない人の残念な思考 交渉に勝つ弁護士が明かす、根拠の「強弱」
世の中は多くのウソとわずかの真実で成っている。未来からのシグナルはかすかで、容易につかめない。明確な根拠と確信を持って判断できることはほとんどない。
人生は霧の中を行軍するように曖昧模糊としている。それでも、できるかぎり判断の誤りを避け、最善解に至る方法を見つけなければならない。たとえ右往左往を余儀なくされても、秩序だった右往左往をすることが必要である。
われわれは、感覚的に判断し、オプション(選択肢)を考えずに行動している。それが多くの誤りと失敗の根本である。そこから脱するには、いくつかの視点が必要である。拙著『プロ弁護士の「勝つ技法」』でも触れている「情報の真偽を吟味する」やり方を紹介しよう。
「権威ある鑑定」も一意見にすぎない
私が工場用建物の買収交渉で買い主の代理で交渉したときのことだ。値段で折り合いがつかず交渉は難航していた。
すると、売り主の弁護士(30代半ば)が、80ページもの鑑定書を出してきた。不動産業界では著名な某研究所の作成で、主文は「本件借地権付き建物の価格は60億円」とある。
40億円なら買うつもりだったが、様子を見るため30億円を提示した。
すると、こう反論してきた。
「価格は鑑定書のとおり客観的に60億円なんです。30億円は間違っています」
「間違いということはないでしょう。この鑑定は収益還元法(不動産から得る収益に着目した算出法)を取っているが、ほかの評価方式もあり、評価は人によりさまざまだから」
しかし、「3名の鑑定人が作成した」「某研究所だから信用できる」と、鑑定の正しさを強硬に主張する。交渉のテクニックではなく、どうやら本当に60億円が正しいと信じている様子である。
彼は留学経験があり、ニューヨーク州弁護士の資格も持っている。ロースクールで事実と意見の違いを叩き込まれたはずだが、身に付いていない。
鑑定書は、売り主の立場からの1つの意見にすぎない。意見なのだから「正しい」などとはいえない。
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