意見と事実が区別できない人の残念な思考 交渉に勝つ弁護士が明かす、根拠の「強弱」

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体験した明らかにおかしい例を挙げる。

①自動車事故鑑定

事故車現物を見ないで写真だけで鑑定したという。そんなことは不可能である。

②医事鑑定

被告の依頼で作成され、裁判に提出された。しかし、鑑定した医師は原告の代表者と長年の付き合いがある。利益相反の疑いが濃厚。

③建築鑑定

鑑定した建築士が資格を詐称していたことが裁判途中で判明した。

こんな例がいかにも権威ありげにまかり通っているのが現実である。「鑑定は公平・中立だから信用できる」「権威ある鑑定だ」と考えると、実態と違う。たとえ裁判所の採用した鑑定人の鑑定でも、簡単に信用できない。

鑑定は必ず当事者の利害と立場を反映している。鑑定人は依頼者(スポンサー)のために鑑定する。鑑定料は依頼者が払う。依頼者の意に沿わない鑑定結果だったら利用価値がない。

だから使われない。素人目には権威があるように見え、中立・公平を装う鑑定も、あくまで鑑定者の「意見」にすぎないのである。

「根拠もどき」にだまされるな

世の中には、結論だけの意見や屁理屈が蔓延する。

形だけの根拠ではなく、実質的な根拠があるかどうか、念を入れて確かめる必要がある。意見の良しあしを見きわめるポイントは、意見の「根拠の有無(または強弱)」を押さえることである。

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結論を拝聴するのではなく、根拠を確かめると、専門家の意見も怪しくなる。

根拠を考えるにはエネルギーがいるから、それを端折って、感覚的に結論を導く意見が多い。3つのタイプがあると知っておくと役立つ。

(1)「結論だけ」タイプ

この手の論者は、根拠はいわず、結論だけを断定する。たいていは事実と意見の違いを知らない類の人である。

(2)「根拠もどき」タイプ

一見根拠があるように見えるが、形だけで実質的根拠に欠ける事例。前述の不動産鑑定の例もそうである。

(3)「根拠薄弱」タイプ

根拠はあるのだが、一面的な見方しかしておらず、問題の全体像を考慮していない意見。たいていは反対意見を無視している。

矢部 正秋 弁護士

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やべ まさあき / Masaaki Yabe

ビジネス取引、国際取引を主に扱う弁護士。サラリーマン生活を経て弁護士登録。英米に留学し帰国したのち、東京で法律事務所を設立。以来三十数年にわたり黒字で経営。現在は、2500名超の法律家を擁する国際法律事務所との外国法共同事業に従事。法律関係の多くの論文・著作のほか、『プロ弁護士の思考術』(PHP新書)など、ロングセラーとなったビジネス書も多い。

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