「米津玄師」の曲がロングヒットし続ける理由 その「完全栄養食」としての音楽の魅力を分析

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思い出したのは、安全地帯のことだ。「ワインレッドの心」や「恋の予感」(ともに1984年)など、彼らのマイナーのヒット曲は、あの頃、歌謡曲と「ニューミュージック」(ロックとフォークの当時の総称)の融合した音として聴こえた。

象徴的に言えば、若者向けのバーにも、中年向けの場末のスナックにも似合う音だった(余談だが、安全地帯のボーカル=玉置浩二と米津玄師の高音の声質は少し似ている)。

そのような門構えの広さが、米津玄師の音にはある。一見若者に閉じた音楽の装いだが、その中に精巧に組み込まれた歌謡曲性によって、昭和歌謡を聴いていた私のような世代にも訴えてくるものがある。40~50代を含む広い後背地に、ジワジワと広がっていった結果として、ロングヒットとなっているのではないかと考えることもできる。

以上、Jポップ、洋楽、そして歌謡曲――これらの魅力を黄金律で配合した音楽。言わば「完全栄養食」のようなパーフェクトな音楽として、私には聴こえたのである。これが、私が考えた、米津玄師の「売れ続ける理由」だ。

あえてライバルを挙げるならば星野源

あえて米津玄師のライバルを考えてみれば、それは、米津と同じく作詞・作曲・編曲すべてを自分でこなして、ヒットを連発している星野源となる。

そして、メジャー中心の星野源とマイナー中心の米津玄師の戦いは、1980年代アイドル界における、シングル曲がほぼメジャーのみだった松田聖子と、逆にマイナーに偏った中森明菜との戦いを想起させる。

彼らの戦いは、現在の音楽シーンの中で数段ず抜けた、言わば「頂上決戦」だ。

昨年までは星野がリードしていたが、今年に入ってからは米津が、押し相撲でジワジワと星野に迫っている。ビジネスシステムの中で作られたヒット曲ではない、音楽そのものの力で勝負するヒットメーカー2人による、ガチンコの頂上決戦。これからも、まったく目が離せない。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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