「米津玄師」の曲がロングヒットし続ける理由 その「完全栄養食」としての音楽の魅力を分析

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第一の魅力は、米津玄師の声である。

高く響き渡る粘着質の声。これは、本人がリスペクトしていることを公言している、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文や、RADWIMPSの野田洋次郎の後継と言える声質だ。曲のサビのここぞというところで、あの声質が(後述のように)上下に跳躍すること。それが「売れ続ける理由」の最大の前提となろう。

第二の魅力として、メロディの話をしたい。

それはその跳躍についてである。「Lemon」のサビ=「♪あの日の悲しみさえ~」からや、「打上花火」のサビ=「♪パッと光って咲いた~」からの音の動きは、とても忙しい。五線譜の上の方の高音部の中で、16分音符の細かい符割りで、上へ下へ、オクターブ以上の行き来をする。

と書くと、実験的な音楽のように聴こえるかもしれないが、高音部での音の跳躍は、たとえばMr.Childrenがよく使う技法だ。つまりはある意味、Jポップの王道的手法である。言い換えれば、Jポップの主戦場の1つであるカラオケの場で、歌自慢の若者がこぞって歌いたくなるメロディだと言え、そのあたりもロングヒットに貢献していると思われるのだ。

特徴的なコード進行

第三の魅力として、その特異なコード進行がある。

「Lemon」も「打上花火」も、いわゆる「循環コード」を用いている。

「循環コード」とは、少しでもギターをかじった人なら聞いたことがあろう、たとえば「C→Am→F→G7」などのコード進行が繰り返されることである。

ただし、米津玄師の循環コードは一筋縄ではいかない。「Lemon」の中間部は「Am→F→G→C→F→C→G→C」(キーFmをAmに移調)となかなかにドラマチックで、対して「打上花火」は、シンプルなものの、「Fadd9→G→Am7→C」(キーE♭mをAmに移調)と、こちらは、かなりトリッキーな循環コードだ。

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