思い出したのは、ダフト・パンクの世界的大ヒット「Get Lucky」(2013年)である。個性的な循環コード(Bm7→D→F#m7→E)を延々と続けることによる麻酔的なグルーヴで、世界中の聴き手を踊らせた、あの曲に近い効果を、特に、最後までほぼ1つの循環コードが続く「打上花火」は醸し出していると言える。
売れ続ける理由の決定打になる第四の魅力は
ここまでをまとめると、高く響き渡る粘着質の声質の魅力に加えて、カラオケで歌いたくなるようなJポップ的な魅力、そしてダフト・パンクの循環コードに似た洋楽的魅力の3つが、米津玄師の「売れ続ける理由」ということになる。
だが、実はさらにもう1つ、独特な魅力があり、それが「売れ続ける理由」の決定打ではないかと考えたのだ。
それは「歌謡曲」的な魅力だ。
まず、米津玄師自身が「Lemon」について、「いわゆる歌謡曲を作ろうと思ったんです」と発言していること(『ROCKIN’ON JAPAN』2018年4月号)。
そして、聴いていて驚いたのだが、アルバム『BOOTLEG』収録曲の、ほぼ全曲がマイナー(短調)なのである(マイナーとメジャー=長調は、音楽的に厳密に区分できるものではないが、明確にメジャーと断言できるのは「かいじゅうのマーチ」「ナンバーナイン」のみ)。
もちろん「Lemon」も「打上花火」もマイナーだ。
誤解を恐れず言えば、歌謡曲(演歌含む)とはマイナー中心の音楽で、そのアンチとして組成したJポップはメジャー中心の音楽である。そして、歌謡曲の中でも、1980年代には、メジャーのアイドル音楽が幅を利かせてくるが、1970年代までは、かなりマイナー偏重のジャンルだった。
マイナーによる哀愁を帯びたメロディを、米津玄師の声で歌われると、昭和の歌謡曲が醸し出していた、あの切ない感情が沸き立つ。そしてそれは、現在の音楽シーンの中ではかなり特異な、差別性が高いものである。
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