「仕返し」はチームワークに有効とは言えない 「フリーライダー」を更生させる戦略はある?

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囚人のジレンマゲームでも、最初から最後まで自白を続ける戦略(all-D戦略と呼ばれる)に、しっぺ返し戦略は勝てない。そもそも、all-D戦略は悪くてアイコで、決して負けることがない戦略である。囚人のジレンマゲームでは、一度相手に抜け駆けされると、自分も抜け駆けをしないかぎり、成績が追いつくことはない。all-D戦略相手には抜け駆けして勝つことは決してできないので、しっぺ返し戦略は1ラウンド目に被った抜け駆けの被害を取り戻すことができず、負ける。1対1の対戦結果で、生き残りを争わせると、進化シミュレーションであっても、しっぺ返し戦略はall-D戦略に淘汰されてしまう。

ただし、「全体の成績上位者を生き残らせるルール」の進化シミュレーションであれば、協力し合う傾向が強い同士のほうが刑期は短くなり、裏切り合う同士のほうが刑期は長くなるので、裏切り合う傾向が強い個体が淘汰されやすくなる。しっぺ返し戦略同士の対戦ではすべて協力し合いどちらも平均2年の刑期、all-D戦略同士の対戦ではすべて裏切り合いどちらも平均5年の刑期になるので、しっぺ返し戦略のほうが生き残りやすい。しっぺ返し戦略とall-D戦略の対戦でも、最終的にどちらもほとんど平均5年の刑期になるので、しっぺ返し戦略同士の対戦結果には劣り淘汰される。つまり、しっぺ返し戦略の群れにall-D戦略が侵入しても、いくらかの共倒れによってall-D戦略は駆逐される。

このような、協力することが有利になる条件(適応度を高める条件)においては、しっぺ返し戦略は栄え、協力を増やすことができそうである。現代社会が同じ条件だと言えるならば、「しっぺ返しが協力の源」という主張が正しいように思えてくる。

しっぺ返し戦略は本当に協力を増やせるのか

ただし、しっぺ返し戦略が協力の源のように見えるのは、協力しない他者を排除しているからだとも言える。ここで出てきたすべて裏切るall-D戦略こそフリーライダーであるが、しっぺ返し戦略はフリーライダーを排除できる戦略であって、フリーライダーを更生させる戦略ではない。

当たり前だが、しっぺ返しをされたからといって、必ずしも協力的になるわけではない。たとえ自分が最初に始めたとしても、相手に裏切りや抜け駆けをされて、次から協力したいと思えるようになるだろうか。

メンバーを入れ替えながら、協力し合う集団を作り上げるのが目的であれば、しっぺ返し戦略が有効になるケースは多いだろう。しかし、会社のようなメンバーが固定された集団内において、お互いの協力を増やすことを目的にするならば、しっぺ返し戦略は時に下策になりうる。協力したいという気持ちを増やすには、別の手が必要だ。

囚人のジレンマゲームは近年、抜け駆けの必勝法を探ること以上に、お互いの協力が増える条件を探るために用いられることが多くなった。協力を増やす方法の明確な答えはまだ出されていないが、しっぺ返し戦略が重視されることは少なくなってきている。現代社会のルールから報復律が消え去ったのと同様に、新しいやり方を模索している最中なのだ。

粳間 剛 医師、医学博士、脳科学者

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うるま ごう / Go Uruma

医師(内科/精神科/リハビリテーション科)。高次脳機能障害・発達障害・認知症のリハビリテーションを専門とする。著書に『コメディカルのための邪道な脳画像診断養成講座』『高次脳機能障害・発達障害・認知症のための邪道な地域支援養成講座』『ココロとカラダの痛みのための邪道な心理療法養成講座』がある。

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