「仕返し」はチームワークに有効とは言えない 「フリーライダー」を更生させる戦略はある?
実は、しっぺ返しを崇拝する人は、今でも、専門家であっても、多い。たとえば、人間の社会性(協力)の研究に用いられるゲームで、しっぺ返し戦略が好成績を収めたことを根拠に、しっぺ返しがあらゆる協力の発生と成長の根幹となる原理だ、といわんばかりの主張を行う専門家もいる。しかし、これが成功するのはごく一部の状況で、安易に一般化できるものではないと警鐘をならす専門家もいる。
囚人のジレンマゲーム
ではこの、「恩には恩、仇には仇」の、しっぺ返し戦略が最強になるとされたゲーム、「囚人のジレンマゲーム」について解説しよう。囚人のジレンマゲームは、経済学の世界でもとてもよく研究に使われるゲームで、人間同士の協力や裏切りなどの評価に使われる。
ゲームで人間の社会的行動が研究されてきたと聞くと驚く人がいるかもしれないが、本当である。このゲームの解説を通じて、しっぺ返し戦略の歴史を追ってみよう。
以下のような2人の容疑者の状況を想像してみてほしい。彼らが犯した罪の刑期は本来であれば5年である。ただし、現状では証拠が不十分で、もし2人が共に黙秘をした場合は、刑期が2年になる。
そこで、容疑者2人に取引が持ちかけられる。「どちらか片方だけが自白した場合は、自白したほうは無罪放免にしよう。そして、黙秘したほうは懲役10年にする」といった具合に。ただし、もし、両方が自白した場合は、証拠が出そろうので、どちらも刑期が本来の5年になる。そんな条件の中で行われるゲームだ。
この条件では、自分の抜け駆け(ゼロ年)、両者の協力(2年)、裏切り合い(5年)、相手の抜け駆け(10年)の順で、自分の刑期が長くなっていく。ここで、最も自分の損を減らすための方法を考えてみよう。
囚人同士で話し合うことは禁じられているので、相手の手を予想しながら自分の手を考えることになる。すると、「相手が自白した場合でも、黙秘した場合でも、自分は黙秘するよりも自白したほうが刑期は減る」ことに気づく。
相手が自白した場合、「自分が黙秘したなら自分の刑期は10年、自白したなら5年になる」。よって、黙秘よりも自白したほうがよい。
相手が黙秘した場合、「自分が黙秘したなら自分の刑期は2年、自白したならゼロ年になる」。よって、黙秘よりも自白したほうがよい。
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